美青年に心を奪われた女の悪夢

『S 30歳』とのメッセージは順調に続いた。

翔太と名乗った彼は流行のスタートアップ経営者で、紳士な雰囲気を漂わせながら砕けた一面も見せる、親しみやすく頭も良さそうな男だった。

「留美さんとは、絶対に気が合うと思うな」
「僕、留美さんみたいなちょっと気の強そうな美人が好きなんだ(笑)」
「ぜひ一度美味しいものでも食べながらデートできたら嬉しいです」

そう言って彼が候補にあげるのは流行の高級店ばかりだったため、自ずとテンションも上がる。

留美自身も、「会って話がしてみたい」という気持ちは日々大きくなっていた。

そしていよいよデート当日、待ち合わせた広尾のフレンチの店に着くと、写真通りの美青年が留美に笑顔を向けていた。

「……独身生活は気楽だし、それなりに充実した人生を送ってると思う。でも、もう自分のことばかり考えるのは疲れちゃったんだよね」

翔太とは初対面とは思えないほど、すぐに打ち解けた。

これまでアプリで出会った男たちには、違和感や価値観のズレを感じることが多かった。けれど彼とは会話をするほど、共感や共通点しか見つからない。

「コロナで孤独を知って痛感した。綺麗事みたいだけど、これからは誰かのために生きたいと思うんだ。家族を作って、次のステップに進みたいなって……」

「わかります、私も同じです……」

二人はしばし見つめ合う。

翔太は本当に綺麗な顔をしていた。「どうしてこんな人がアプリを」と思うが、偶然にも、彼も留美と同じくコロナが流行る前に恋人に浮気をされ破局したそうだ。

「会ったばかりだけど、留美ちゃんとの生活って想像できちゃうな……って、ごめん。気が早いね!」

照れたように目を逸らす翔太に、思わず胸がキュンとなる。

「いえ、なんというか……私も同じです」

「……ほんとに?……嬉しいよ」

そのとき、翔太のスマホが振動しているのに気づいた。

「気にしないで出てくださいね」

「仕事の電話だ……ごめん、少し待ってて」

彼が席を外した間も、留美は夢心地でワインを飲んでいた。少し酔いが回ったせいか、頭がふわふわする。

こんな気持ちになるのは実に久しぶりだ。彼とは運命的な気配すら感じずにはいられない。

――翔太くん、本当に素敵な人……。

仕事が多忙なのか、翔太はなかなか戻らない。けれど留美は、彼との将来の妄想を一人で楽しんでいた。

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すると突然、ウェイターが神妙な顔つきで近づいてきた。

「あの、お客様……お連れさまはお帰りになられたようなのですが……」

「?????」

言葉の意味が分からず、留美はほろ酔いの笑顔のままウェイターを見つめる。

「先ほどまで店の外で電話をしていたようですが、あの、そのままお帰りになられた……ようで……だ、大丈夫でしょうか……?」

その言葉を認識するのに、かなりの時間がかかった。

そして事態を飲み込んだ時には、留美は全身にじっとりと汗をかき、今にも目眩で倒れそうなほど血の気が引いていた。

NEXT:8月16日更新
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