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事件が凶悪であればあるほど、なぜメディアと社会は煩悶を停止するのか

相模原障害者殺傷事件が僕たちに突きつけたもの【第7回】
映画監督・作家の森達也氏が3月19日、死刑判決直後の植松聖と面会した。2016年、入所中の知的障害者19人が殺害されたあの事件の深層とは何か?

第1回はこちら:相模原障害者殺傷事件とは何だったのか?「普通の人」植松聖との会話

ALS嘱託殺人事件の衝撃

2020年7月23日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に薬物を投与して死亡させたとして、京都府警捜査1課は二人の医師を嘱託殺人の疑いで逮捕した。学生時代に知り合って現在は東京と仙台でそれぞれクリニックを経営している二人の医師は、昨年11月30日に京都市に住む林優里さんのマンションを訪ね、大量に服用すれば致死量となる「バルビツール酸系」の薬物を投与して殺害した。安楽死の報酬は130万円。林さんから山本容疑者の口座に振り込まれていたことが確認されている。

被害者の(自分を殺害してほしいとの)意に沿うことが前提である嘱託殺人は、普通の殺人に比べれば刑罰は軽い。最高刑は7年以下の懲役または禁錮だ。過去に患者を安楽死させたとして医師が送検されたケースは7件あり、このうち2件は起訴されて有罪判決を受けているが、富山県の射水市民病院や和歌山県立医大附属病院など延命治療を中止した5件は、嫌疑不十分などの理由で不起訴となっている。

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現状で安楽死を認めている国は、スイスとオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダに韓国、アメリカとオーストラリアの一部の州だ。日本の法律は認めていない。しかし不起訴となった5件が示すようにグレイな領域がある。

末期がん患者に塩化カリウムを注射して死亡させた医師が裁かれた東海大病院事件では、懲役2年(執行猶予2年)を言い渡しながら横浜地裁は、安楽死が許容される4つの要件を挙げた。

(1) 患者に耐え難い肉体的苦痛がある
(2) 死が不可避の末期状態である
(3) 苦痛緩和の方法を尽くして他に代替手段がない
(4) 患者本人の意思表示がある

これらすべてが満たされるのなら安楽死は認められる、との解釈だ。現実に厚労省の終末期医療の指針では、「痛みや不快な症状を緩和し、精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うこと」などを条件に、延命のための医療行為の中止を認めている。