世界一周旅行の様子を綴ったベストセラーエッセイ『ブラを捨て旅に出よう』の著者で旅作家の歩りえこさんに、世界各国で出会った男性とのエピソードを披露してもらっているFRaU web連載「世界94カ国で出会った男たち」(毎月2回更新)。

今回は、旅行資金調達のために働いていたオーストラリアの農場で出会った男性との話。出会った瞬間に恋に落ちたという歩さん。ですが、一緒に過ごすうちに彼の心の闇が見えてきたそう。恋愛期間中、「人の心の在り方」について改めて気づいたこともありました。

歩さんの今までの連載はこちら▶︎

心臓がバクバク… 出会った瞬間、フリーズ

歳を重ねると、なぜ人を純粋に好きになることができなくなってしまうのだろう?

アラフォーになった今の私は「人を好きになる」という感覚を年々感じなくなってきている気がする。だって、恋愛ってかなりの気力体力が必要。好きな人の存在は人生で必要不可欠かもしれないけど、エネルギー消費も半端ない。

10代、20代の頃は常に誰かにときめいたり、恋愛をしていたものだけど、幾つもの出会い・別れを繰り返し……人を好きになる度にこの上ない幸福感を味わったかと思えば、酷い裏切りに遭って心から人を信用することが出来なくなってしまったり……。年々、様々な経験を積み重ねていき無意識のうちに恋愛がエコモードになってしまっていくのかもしれない。マズイ。このままでは枯れてしまう……。

でも、恋愛ってある日突然、何の前触れもなくやって来るもの。だから戸惑うし、予想外の展開に手に負えなくなったりする。若い頃は何のためらいもなく恋にどんどん落ちていた。あの日がそうだった

23歳で世界一周を始めて、9カ月ほどが経ち、資金が少しずつ減ってきたので補充するためにオーストラリアのワーキングホリデービザを取得した私はシドニー空港に到着した。大都会シドニーのユースホステルにチェックインし、バックパックをおろしてから、リビングにある求人情報をチェックしてみる。

オーストラリアのウィットサンデー諸島上空を空中遊覧!憧れのハートリーフを見れた。写真提供/歩りえこ

日本語教師、日本食レストラン、美容師など……求人の数はとても多く、30分ほど見入っていると、一枚のチラシが目に留まった。【ファームワーク:住み込み3カ月で75万円稼げます】

75万円あれば旅行資金を結構増やせるな。しかも住み込みで宿代の出費もない。私はメモ帳に住所と電話番号、メールアドレスを走り書きし、早速電話してみた。『ファームワークってどんなお仕事ですか?英語は流暢じゃなくても大丈夫ですか?』と拙い英語で質問すると、こんな答えが返ってきた。

「単純な肉体労働だから英語ができなくても大丈夫!さつまいもを植えたり、マンゴーを収穫したりする誰でもできる仕事だよ。ビザがあればいつでもおいで」と。いわゆる農業だ。海外で働くなんて初めての経験だけど、異国の地で働くってこんなに簡単なんだな。

早速長距離バスチケットを取って東海岸を観光がてら北上しながら、農業ワークができるバンダバーグという田舎町へと向かった。娯楽施設もない田舎で働けば、食費くらいしかお金を使うこともなく、農作業をしたら疲れるから遊びに行く気力もないだろう。よし、お金を貯めるぞ~!

オーストラリア東部の有名な観光名所「12人の使徒」。写真提供/歩りえこ

バスを降りてメモに書いてある住所に到着すると、玄関に鍵がかかっていた。『どなたかいませんか~?』と大声で呼ぶと、190cmは余裕で越える長身男性が鍵を開けてくれた。

「日本人?」と日本語で聞いてくる男性の顔を見た私は、一瞬時が止まったかのようにフリーズしてしまった。あり得ないでしょ……何でよりによってこんな田舎にド真ん中タイプのイケメンが現れるの?

長身の割に小さな顔、綺麗な二重瞼、スッと通った鼻筋、小ぶりな唇、日焼けした筋肉質な身体つき。こんなカッコイイ人にドすっぴん顔を見られたくない! 私はバクバクする心臓を抑えながら全くメイクをしていないことを悔やみ、恥ずかしさで思わず顔をそむけた

「大丈夫?荷物重そうだね。持とうか?」直人(仮名)と言うイケメン長身男はひょいと私のバックパックを担いで、宿のリビングへと案内してくれた。「新入り?日焼けするし女の子にはきつい仕事だよ」

ダメだ。せめて眉毛だけ描いてから会話したい……! でも、いきなりメイクするのも不自然だ。「じゃ、がんばって。あと半年はいるつもりだから分からないことがあったら何でも聞いてよ」と、彼は自分の部屋に戻って行った。(うん、眉毛を描いたら後で何でも聞きに行く!)