左上から時計回りに、石戸諭さん、深緑野分さん、小川晢さん、真藤順丈さん

作家がコロナを語るのは無責任? 激動の時代に「物語を書く意味」とは

【特別鼎談】真藤順丈×深緑野分×小川哲

2011年の東日本大震災、そして2020年のコロナショック――この10年間で日本社会が大きく変わる中で、物語を書き続ける意義とは何か。コロナ時代とどう向き合うか。

直木賞受賞作『宝島』の真藤順丈さん、本屋大賞2019第3位『ベルリンは晴れているか』の深緑野分さん、日本SF大賞&山本周五郎賞をダブル受賞した『ゲームの王国』の小川哲さんが縦横に語る。聞き手は『ルポ 百田尚樹現象』著者でノンフィクションライターの石戸諭さんが務めた。

 

今、小説を書く意味とは?

石戸 2011年の東日本大震災、福島第一原発事故から2020年の新型コロナ禍まで、約10年あるわけですが、ちょうど皆さんが作家として台頭し、活躍された期間と重なっていると思います。震災、コロナと大きな出来事が起きて、あまりにも現実が小説のような、SFのような世界になってしまいました。今、小説を書く意味をどこに見出しているのかを伺いたいと思います。

小川 東日本大震災が起こった時、僕は小説家でも何でもなく、そもそも小説すら書いていなかったんですけど、今回のコロナは、まさに自分が小説家になってからやってきました。小説を今書くというのは、独特の難しさがあります。特に3月〜5月あたりはそうでした。もし2011年に僕が小説家だったら、同じようなことを考えたと思いますが、2020年もいったい小説家の仕事とはなんだろう、書くことにどんな意味があるんだろうと思いながら仕事をしています。

コロナと共に世界全体が生活している中で、コロナに知らんふりをして、コロナなんて関係ないよという小説を書いて、それを読者が読んでくれたとして、それに何の意味があるのか、みたいなことをずっと考えながら書いていました。それが小説を書くことの難しさにもつながっています。コロナの前に僕が書いていた時期というのは、すごく幸福な時間だったとすら思います。今、コロナの時代に書いているという意味では、作家は普段の生活の中でコロナと向き合うと同時に、コロナと向き合っている社会に対して、どう向き合うのかというのを考えなきゃいけないなと思っています。

深緑 私はまさに震災からコロナまでの約10年と作家として活動期間がほぼ重なっています。短編『オーブランの少女』で(東京創元社主催第7回ミステリーズ!新人賞の)佳作に入選したのが2010年の7月で、今年で10年目になるタイミングでコロナなんですよね。東日本大震災の時は、自分自身が作家として未熟すぎて、小説に取り込んで書くという選択肢そのものが全然なかったんです。それはもっとベテランの人とかがやることだろうと思っていました。

私の友人には震災に巻き込まれた人がいて、ご本人とご家族は無事だったんですけど避難生活を過ごしているし、周りには亡くなった方もいたんです。そういう話を聞いていて、当時はもうとてもじゃないけど書けるものではないという思いはあったし、今もまだ書けないと思います。ただ、コロナに関しては、書かざるを得ないというか、書くことを期待されている空気感は何かあるなというのがあって、それに乗らないようにしています。

特に今は、まだまだまったく安心できる状況ではないですよね。その中で、専門知識のない私が安易に言葉を発することで、いたずらに引っかきまわしたくないなと思うのです。時々、新型コロナウイルスの問題でよく「コロナとの戦争」という言葉が出てきます。私はコロナと「戦争」をくっつけたくないんですね。なぜかといえば、戦争は対人間だけど、コロナは対ウイルスだからです。戦争は人間同士をいがみ合うように仕向けるものです。そうじゃないと戦闘意欲がなくなるので、戦争中は人を焚きつけるのが当たり前なんですね。だけど、ウィルス相手でそれをやっちゃまずいで。人が人を助けないと、立場や思想や主義に関係なく連携しないと解決できない問題だからです。

やたらと戦争に例えるのはやっぱりよくないと思っています。みんな緊張するのはわかるし、何か言ってほしい気持ちや、不安だから何か言いたくなる気持ちは私にもありますが、それを今、自分がやるべきなのかと自分に問うと、中途半端な知識でいたずらにやるべきではないと思うのです。

Twitterも私はやっていますが、たまに何か言うとすごく拡散されてしまうことがあります。それは自分の知名度だけじゃなくて、私の言葉を使う能力がたぶん、一般的なユーザーよりは高めなものを持っているからです。そこは怖い側面もあると自覚しています。あまり安易に発信していると私自身がアジテーターになってしまいかねないという危機感もあるし、当事者の声を奪って代弁者を気取ってしまったひどい過ちの経験もあります。