教えてドク! 過去でママに恋されたら、マーティーは消えちゃうの?

そもそも次元を増やすと不安定な世界に
高水 裕一 プロフィール

紀元1世紀のアインシュタイン

では、時間が本当に1次元なのかを考えてみるために、宇宙とはどういうものかについて、あらためて考えるところから始めたいと思います。

え、唐突ではないかって?  確かに、そう思われるかもしれませんが、ほんのしばらくお付き合いください。

古代から人類は、自分たちを囲む環境としての宇宙というものを、なんとかして理解しようとさまざまに取り組んできました。とくに四大文明にはそれぞれに対応する宇宙観があり、第1回ではエジプトに伝わる、天空を司る女神ヌートをご紹介しました。インドでは、宇宙の中心に須弥山(しゅみせん)があり、その上に人間がいて、山がある大地は3頭の象が支えていて、その象は亀の甲羅の上に乗っているとされています。

【写真】インドで考えられていたとされる宇宙観インドで考えられていたとされる宇宙観 photo by gettyimages

中国では、紀元150年頃の前漢の時代の『淮南子』には「往古来今(過去と現在、つまり時間)のことを宙という、四方上下(空間)のことを宇という」とあります。まさに「宇宙」とは、時間と空間のことだと言っているのです。奇しくもこれは、アインシュタインが「時空」と呼んだ宇宙観と一致しています。不思議なことです。

相対性理論から導かれた現代物理学の宇宙観では、宇宙は「時空」という時間と空間の立体物のようなものと考えています。これを「時空多様体」と呼んでいます。その中に、素粒子や、星や、惑星が浮かんでいるといったイメージです。いわば宇宙は1個の「器」でもあります。

次に、宇宙の形状です。宇宙がどのようなかたちをしているかについては、基本的に、(1)どこまでも平坦(イメージしにくいとは思いますが、3次元の空間が平らなまま、ずっと続く)、(2)球体、(3)馬の鞍型、が考えられています。

【図】宇宙のかたちを決める曲率宇宙のかたちを決める曲率

このような空間の形状については、空間の中で2本の光を平行に発射したとき、それらがどのような結果を迎えるかでわかります。

(1)の「どこまでも平坦」なら、2本の光はずっと平行なまま進みつづけます。

(2)の「球体」なら、2本の光は近づいて、やがて交わります。

(3)の「馬の鞍型」なら、2本の光はどんどん離れて、遠ざかっていきます。

現在のところ、実際の観測では「どこまでも平坦」が正解です。ただし、それはあくまでも現在の観測値であって、理論的に宇宙がどこまでも平坦だと証明されたわけではありません。また、(1)から(3)のように、空間が平らなのか、曲がっているのかを表す言葉が「曲率」です。

(1)の平らな空間は、曲率はゼロです。(2)の球体は、曲率が正(>0)、(3)の馬の鞍型は、曲率が負 (<0)であると考えます。

それらの違いは、その表面に三角形を書いたとき、その内角の和がどうなるかでもわかります。(1)は180度ですが、(2)では180度よりも大きくなり、(3)では逆に180度よりも小さくなります。

では本当のところ、宇宙はどの曲率で、どのようなかたちをしているのでしょうか。その答えはまだわかっていません。しかし、突きとめる道筋だけはわかっています。

宇宙のかたちを求めるには

Rμν-12gμνR=8πGc4Tμν

これは、一般相対性理論のアインシュタイン方程式です。物理学では、目の前に見えている方程式に加えて、それが導かれるまでの、「アクション」(=作用)と呼ばれているものがあります。アインシュタイン方程式のアクションを見てびっくりするのは、たった一言このようにしか書かれていません。

このRを変分せよ

「変分」とは、微分のようなものと思ってください。

この方程式が意味するところはじつに深遠です。非常にざっくり言えば、式の左辺はさきほど出てきた曲率、すなわち時空の曲がり具合を表しています。そして右辺は、その時空の中に存在する物質やエネルギーの量の大きさを表しています。つまり、「器」とその中身が、ある種のバランスを保っているということです。

ということは、宇宙に存在する物質(やエネルギー)の量がすべてわかれば、宇宙のかたちがわかるということです。ダークマターやダークエネルギーは正体こそ不明ですが、その大きさはじつは正確に見積もられていて、それを加味して方程式を解くと、宇宙は平坦である可能性がきわめて高いというのが現在の結論になるのです。

アインシュタインはダークマターやダークエネルギーの存在など知りませんでしたが、「かたち」から「変化のしかた」まで、宇宙のあらゆることがたった1つの"R"から解き明かせるのが、この方程式の不滅の魅力です。やっぱり、しびれます。

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