元総理通訳と国連機関の親善大使を務める女優が語る「外国語学習の真髄」

中川浩一×紺野美沙子(前編)
現代ビジネス編集部

約束通りに来ることはない

中川:最初の頃、研修をしていたエジプトで、現地の人たちの価値観に衝撃を受けたことがあるんです。先日、紺野さんと今日の午後2時に会いましょうって約束をしましたよね。これがアラブだと、「何時に誰と誰が会う」っていうのを決めるのは神様なので、(アラビア語で神様の意味)アッラーの思し召しがないと今日みたいに会うことができないんです。「神様の思し召しがあれば」って、アラビア語で「インシャーアッラー」っていうんですけど。

ふつう日本人は、アッラーと言われても「神様まかせにしないでよ、人間が決めてよ」って思うじゃないですか。でもアラブ人は、すべて「インシャーアッラー」なんです。たとえば夏にクーラーが壊れて、直してほしい。それで、門番の人に「早く直して」と言うと「インシャーアッラー」ですよね。いつになるかわからないんです。神様が思し召さなきゃ、本当にずーっと直らないんです。

紺野:じゃあ、2時に約束しても来ないんですか?

中川:来ないんです。1時50分になって、電話で「明日ね」って。アラビア語で(話し言葉で)「ブクラ」って言うんですけど。……で、「ブクラ」になったら、また「ブクラ」になる(笑)。いつまでたっても会えないんです。

紺野:なかなか思し召しが……

中川:来ないんです。それはそういう社会なので、しょうがないんです。

紺野:ビジネスでも?

中川:はい。だから、日本人が中東でビジネスをやるなら、アラブ人の価値観をわかっておく必要がある。そのうえで彼らに包容力をもって付き合っていくことが大事で、それができる日本人はすごく信頼されると思います。

 

紺野:「なんだいい加減な!」と言うんじゃなくて、「神様の思し召しだから、じゃあ待とうか」みたいな。

中川:そうです。アラブ人だって、そのときが来ればちゃんと仕事をするので。いつ来るかわからないけど、そのときに備えて用意しておくのが大事なんです。

紺野:外交の世界でも、やはり一緒なんですか?

中川:外交の世界でも一緒です。たとえば今年1月に安倍総理が、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーンという3ヵ国に行ったときもそうでした。なかでもサウジアラビアは、イスラム教の聖地があるところだからなのか、いちばんアッラー任せなんです。

紺野:時間におおらかなのね(笑)

中川:そうです。だから、たとえば安倍総理が「何日に伺いますからよろしく」って言っても、直前まで本当に会えるのかわからないんですよ。外務省の人たちも、いつ会えるかを予測してスケジュールを組むんですけど、最後の最後までどうなるかわからない。外交の世界でもサウジアラビアは最難関と言われます。

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