元総理通訳と国連機関の親善大使を務める女優が語る「外国語学習の真髄」

中川浩一×紺野美沙子(前編)
現代ビジネス編集部

書き言葉と話し言葉が全然違う

紺野:それでね、私、アラビア語ってあの文字のイメージしかなくて、それ以外の情報をまったく知らなかったんですけど。この本に書いてあった、アラビア語は書き言葉と話し言葉が違うっていうのに、本当にびっくりしてしまって。そんなこと、ありえます? 日本で言えば、古文とか漢文といった昔の言葉と、今の話し言葉の両方をやるってことですよね?

中川:そうですね。こうやって今、紺野さんとしているような会話は、ほかの言語なら本を読めればできると思うんですけど、アラビア語は書き言葉と話し言葉が本当に離れているのでできないんです。私が最初にエジプトに留学したときなんか、変な話ですが、新聞が読めても家のメイドさんと話すことができなかったんです。

紺野:アラブの人たちにとっても、使い分けは面倒じゃないんでしょうか? アラブの人の中で「書き言葉と話し言葉を一緒にしよう」みたいな流れは、ないんですか?

中川:うーん。書き言葉と話し言葉はまったく違うので、「一緒にしよう」とはならないんです。たとえば「今日」という言葉は、アラビア語の書き言葉だと「アルヤウム」っていうんですけど、話し言葉にすると(エジプトでは)「インナハルダ」って。

紺野:ぜんっぜん違う!

 

中川:これがもっと厄介なのが、同じアラビア語でも、話し言葉は国によって違うんです。同じアラブの国でも、いちばん東側のイラク人と西側のモロッコ人だと、話すことができないとよく言われます。

ただ、書き言葉、あるいはニュースとか公式な場面で使うアラビア語は、どの国も共通なんです。話し言葉と書き言葉という、実質2つの言葉を勉強しないといけない。そういう意味で、アラビア語はアメリカの国務省でも一番習得が難しい言語とされていまして、日本の外務省でもアラビア語だけは研修が3年間で、あとの語学はすべて2年間なんですよ。

この本を出していろいろな反響を受けたんですけど、研修期間が3年もあればできるようになるよねという感想もありました。ただ、アメリカやヨーロッパで研修をするわけではないのでなかなか……。

紺野さんもパレスチナに行かれて体感されたと思うんですけど、途上国での研修っていうのは、語学の勉強という意味では恵まれていますけど、生活そのものが厳しい。だから私もアラビア語は研修が3年あると言われて、決して嬉しくはなかったです。逆に厳しい生活環境の中で、世界最難関のアラビア語をマスターしなければならないというプレッシャーの方が強かったです。

紺野:そうですよね。環境も、気候も、文化とかすべてが違いますもんね。

中川:そうなんです。私が就活のときに外務省の面接試験で言ったのは「多様な価値観を身に付けたい」という、就活生なら誰でも言うような陳腐な言葉でしたけど、実際にそれを現場で学べて自分を成長させてくれた。その意味では、アラビア語をやって本当によかったと思うんです。

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