自粛警察はなぜ生まれた?コロナ禍が浮き彫りにした「世間」の正体

日本人を苦しめる「同調圧力」とは
鴻上 尚史, 佐藤 直樹 プロフィール

自粛警察の「正義」

鴻上 自粛警察と言えば、コロナの第一波がピークとなる2020年春の少し前に、嫌な気持ちにさせられる書き込みを見たんですよ。ツイッターで。「ストリートライブをしているやつを見つけた。ストリートライブは違法です」。しかも写真までアップしている。

佐藤 自分が絶対的に正しいという意識ですね。

鴻上 誰からも文句を言われない「正義の言葉」ですね。この発言に対して「ストリートライブぐらい許してやれよ」と返信すると、「あなたは道路交通法をご存じですか。世界は正義によって、法律によって運営されているんですよ」という反論が返ってくるわけです。

法律上はまあ、そうなので、誰からも突っ込まれない、否定されない、といった安心と自信が透けて見えるんです。だから、ああ、すごく厄介なときにコロナが来たなと思いました。これはもう自粛警察そのものですね。「正義の言葉」で自分を確立しようとすることが、同調圧力を背景にした自粛警察の原因のひとつだろうと思っています。

佐藤 なるほどね。しかもそれに対して「いいね!」が付いたりするんですよね。「いいね!」が数値化される、目に見えるかたちで自分が支持されているかどうかも分かる。さらに自分の正しさに自信を持つ。まあ、分かりやすいといえば分かりやすいですね。

鴻上 そうなんです。

 

大阪府によるパチンコ店の名前公表と「同調圧力」

佐藤 緊急事態宣言下、大阪府が営業を続けているパチンコ店の名前を公表しましたよね。公表する前に1200件以上、「夜中まで営業している」とか「休業要請の対象なのに店が開いている」とか、タレコミの電話が府のコールセンターにあいついだそうです。つまり公表という強硬な手段を後押ししたのは、またしても「世間」の同調圧力。

鴻上 千葉県のパチンコ店には抗議する人たちが押し掛けて大混乱となりましたが、そこには「新型コロナ緊急事態宣言発令中」と大書された横断幕を掲げる市役所職員の姿もありました。トラメガ(拡声器)を持って仲間と集まった人たちは、パチンコ店を集団で糾弾することで、自分の所属している「世間」を強化できると思っていたのでしょう。

佐藤 前述した「人間平等主義のルール」も根底にあるので、あそこのパチンコ屋だけが開いているのは平等じゃない、公平じゃないという批判の仕方になるんですよ。

人間平等主義のルール

佐藤氏が考える「世間」を構成するルールの一つ。「みんな同じ時間を生きており、同じ仲間である」と考えることが特徴。「平等」というと聞こえは良いが、「違う人にならないでね」という同調圧力を意味しており、異質なものは外に排除される(=「出る杭は打たれる」)。

例)運動会の徒競走で順位を競わせない、全員手をつないでゴールする

念のために言っておきますと、僕はギャンブル依存症患者のためにも、パチンコ店はなくなったほうがいいと思っているんです。日本はギャンブル依存症の有病率が他国と比較しても世界最悪レベルにある。

厚生労働省の2017年の調査では、生涯でギャンブル依存症が疑われる状態になったことのある人は、成人の3.6パーセント、推計で320万人にものぼるという計算です。国際的に見るととんでもなく高いんです。

利用者でにぎわう都内のパチンコ店(photo by iStock)

一番の原因というのがパチンコ店ですよ。でも今回の問題に関してはパチンコ店を断固支持したいと思ったわけです。先ほどお話しした通り、パチンコ店の名前を公表に導いたのは「世間」です。こんな同調圧力はとんでもない。これはたまたまパチンコ店がやり玉に挙げられたわけですが、何か別の問題が生じれば、他にいくらでも転用できてしまう。これを肯定するのは、同調圧力を認めることにもなりますからね。

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