TikTokがなぜ…アメリカに睨まれた外国資本の「不条理な末路」

標的は中国だけとは限らない

アメリカが仕掛ける罠

その本は、こんな書き出しで始まる。

〈 私は突如として、獣(けもの)にでもなったような気がしていた。身に着けているのはオレンジ色の囚人服。銅に鎖(くさり)を巻きつけられ、両手には手錠、足には足枷(あしかせ)をはめられた。歩くのも、息するのもままならない。まるで、罠(わな)にかかって縛りあげられた獣ではないか。前夜、私は独房に放りこまれた。〉

これは、昨年1月にフランス語版が出され、その後、英語、中国語、日本語……と各国語に翻訳されている『アメリカン・トラップ アメリカが仕掛ける巧妙な経済戦争を暴く』(ビジネス教育出版社、2020年2月刊)の冒頭である。同書は、2019年のフランス人権文学賞を受賞した。

著者は、フレデリック・ピエルッチ(Frederic Pierucci)氏。1968年生まれの52歳で、1928年創業のフランス最大の重機メーカー「アルストム」(Alstom)の原子力部門の責任者を務めていた。

そんなピエルッチ氏は、2013年4月14日、アメリカに出張に行って、ニューヨークのケネディ国際空港に降り立った。すると突然、FBI(米連邦捜査局)の捜査官たちに取り囲まれ、逮捕されてしまったのだ。その10年ほど前に中東で行っていた取引が、アメリカの「海外腐敗行為防止法」(FCPA=Foreign Corrupt Practices Act)に違反したという容疑だった。その時の様子が、冒頭の告白である。

だが、ピエルッチ氏によれば、それは完全な濡れ衣だという。自分が逮捕された真の理由は、アルストムの核技術が、アメリカが持っているレベルを超えてしまったため、恐れをなしたアメリカが、どんな手段を使ってでも、国家を上げてアルストムの原子力部門を叩き潰す決意を固めたためだというのだ。

ピエルッチ氏は、自らが体験した、人権などまるで無視したアメリカの手法を、同書で克明に記している。

〈 これは水面下で進行している経済戦争の話である。

10年以上前から、アメリカ合衆国は贈収賄撲滅の名のもとに、ヨーロッパ、とりわけフランスの巨大多国籍企業に揺さぶりを掛けてきた。アメリカ司法省は海外腐敗行為防止法(FCPA)を適用して、そうした企業の経営幹部を追訴し、ときには投獄した。そして、企業に巨額の罰金を支払わせ、有罪を認めさせたのである。

つまり、FCPAはアメリカの法律でありながら、ごくささいな関わりがあるというだけで、外国籍の企業や人間を摘発する道具ともなっているのである。(中略)

フランス企業は、すでに20億ドル近くの罰金を支払っている。そして、経営幹部6人がアメリカ司法当局によって起訴された。そのひとりが私である。もう黙っていることはできない 〉

 

結局、ピエルッチ氏は、62ページに及ぶ起訴状と懲役125年を突きつけられ、司法取引を迫られる。その間に、アメリカはアルストムに、原子力部門を丸ごと、米GE(ゼネラル・エレクトリック)に売却するよう圧力をかけた。

アルストムは、フランス国内の58基の原発のすべてのタービン発電機や、原子力空母シャルル・ドゴールの蒸気タービンなどを手掛けていた。だが2014年6月、アルストムは売り上げの約7割を占めるこれらの事業を、130億ドルでGEに差し出すことで合意した。これによってピエルッチ氏も、拘留424日にして釈放されたのだった。

その後、アルストム社はアメリカから敵対的な目を向けられない鉄道車両メーカーとして生き残った。現在はこの分野で世界3位のメーカーとなっている。

だが、図らずも核技術を巡る米仏の覇権争いの「渦中の人」となってしまったピエルッチ氏は、怒りが収まらない。1年以上も不当な拘束を受けた上、22年勤めたアルストム社からも解雇されてしまったからだ。そこで自身の体験をまとめ上げ、世に問うたのである。

北京で開かれた出版記念サイン会の様子(gettyimages)
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