フランスで巻き起こった「黄色いベスト」運動(photo by iStock)

新自由主義による悲惨な現実を解決できるのは、左派ポピュリズムです

反緊縮左派が試されるとき(2)
アメリカ大統領選やイギリスのEU離脱など、昨今の国際情勢を語るキーワードとなっている「ポピュリズム」。立命館大学教授の松尾匡氏が、いま世界中を席巻する「ポピュリズム」運動の実情、そしてその背景に迫りつつ、右派ポピュリズムにはない左派ポピュリズムの可能性について考えます。

「コントロールを取り戻せ!」

前回述べたような「生きているだけで価値がある」生身の個人からの異議申し立て、新自由主義だろうが「リベラル」だろうが共通する分別ぶったエリートからの押し付けに対する反逆は、コロナ前、世界中を覆いつつありました。

昨年2019年は、前年から引き続くフランスの「黄色いベスト」が全土で燃え上がる中で明け、カタルニアでもチリでも香港でも、世界の至るところで民衆が街頭に立ち上がりました。

いったい彼らは何に怒っているのか。

私自身はイギリスのEU離脱は労働者階級にとって決して最善の選択ではないと思っていますが、実際には2019年の総選挙で労働者階級をはじめ多くの庶民が、「今度だけは」とEU離脱のために保守党に投票しました。

彼らの心をとらえた離脱運動のスローガンは、「テイク・バック・コントロール(コントロールを取り戻せ)」です。この心情はよく理解できます。

ブリュッセルにあるEU本部(photo by iStock)

EUでは、大事なことがみんなブリュッセル(EU本部の所在地)のエリートによって決まり、加盟各国の国民に押し付けられてきました。民選の欧州議会はあっても、まだ公式に決定権を握る機関になっているわけではありませんし、執行機関に対するコントロールも議院内閣制の国ほど強くありません。

さりとて執行リーダーが民選されるわけでもありません。ところが、各国の国民が、いくらEUで決まったことが気に入らないと言って国の政府を民主的に変えても、結局EUで決まったことを受け入れるほかないのです。

こうしてブリュッセルのエリートの言うがままに、財政赤字や政府債務残高の削減などの緊縮政策がEU各国に押し付けられました。

イギリスはユーロ圏には入っていませんが、これがユーロ圏に入ろうものなら、欧州中央銀行が「独立」の名の下におカネの出し方を決めることに対して、民意が口出しするチャンネルは何もなくなってしまいます。

それどころか、ギリシャに緊縮政策に反対して借金棒引きを主張する政権ができたときは、欧州中央銀行がギリシャにおカネを出さずに兵糧攻めにして政府を屈服させました。

 

右派でも左派でもやることは同じ

なので結局、中道右派の新自由主義の勢力であれ、中道左派のブレア派的な社会民主主義勢力であれ、どっちを選ぼうがやることはほとんど一緒。

規制緩和して財政削減して法人税を下げて所得税の累進の度合いを緩やかにして、グローバルな大企業のおカネもうけはやりやすくする一方で、庶民のための公的なサービスは削って雇用の流動化を進める。

専門の知的エリートが一致して言っていることだと言い、そうじゃないと企業が国にきてくれないぞ、国際競争力がなくなるぞ、インフレになるぞと言って脅しつけて、その結果、中流的生活が崩壊して、多くの庶民が細る保障の中でのたうちまわってきたのに、無理やりそんな路線を甘受させられてきたのです。

だから、「テイク・バック・コントロール」なのです。こう言ってブレグジットの反乱が起こったわけです。イギリスだけじゃありません。フランスの黄色いベストの反乱も同じです。既成左右のエリート層が共同して立てたのがマクロン大統領で、彼が推し進める金持ち優先政治に対する反発が運動のモチベーションになっています。

アメリカでもそうでしたね。ブッシュ親子はじめ共和党主流派が推し進めてきた新自由主義政策で、それなりの安定した「中流」の暮らしができていた製造業などの労働者階級が没落し、非正規化が進行し、経済停滞で失業者も増えて、大変な格差社会がもたらされました

オバマ政権への失望

ではそんな状況を変えることを期待された「リベラル」派のオバマ政権が、何かその期待に応えることができたかというと、ほとんど何も変わらなかった。2016年の大統領選挙では、民主党候補のヒラリー・クリントンさんはエリート支配層の代理人とみなされました。

既存の二大政党が仕切る世の中は、生身の一般大衆のコントロールの効かないものになってしまっている。

そんな不満の爆発が、共和党リーダーたちが続々と不支持を表明し、主要メディアもそっぽを向くなかで、トランプさんの大統領当選をもたらしたわけですし、他方で前回も今回も民主党側大統領予備選挙での「社会主義者」サンダースさんの躍進・健闘をもたらしたわけです。