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近視の謎がついに解けるのか?カギは太陽光の「バイオレットライト」

近視の進行を抑える「光環境」の秘密
一度発症すると完治が難しく、発症そのもののメカニズムにもまだまだ謎が多いという近視。なんと、光の「環境」によって近視の進行を抑えられる可能性があることがわかりました。

カギになるのが、太陽光に含まれる「バイオレットライト」という光。

慶應義塾大学医学部 眼科学教室の鳥居秀成先生と栗原俊英先生に、バイオレットライトが近視進行を抑制するメカニズムや、治療への実用化に向けたお話を伺いました。


※取材は2020年4月にリモートで行われました。
鳥居秀成 先生(画像左)と栗原俊英 先生(画像右)

バイオレットライトが眼軸長の伸びを抑制

──まずは、近視のメカニズムについて教えてください。

鳥居 近視にもいくつかの種類がありますが、なかでも多いのが「眼軸長(角膜から網膜までの長さ)」が伸びてしまうことが原因で起こる「軸性近視」です。眼軸長が伸びると網膜よりも手前でピントが合ってしまうため、裸眼で遠くが見えにくくなります。

栗原 メガネやコンタクトレンズの使用や、レーシック手術など、症状を改善する方法はありましたが、近視の発症や進行のメカニズムはまだわかっていないことも多く、私たちを含め世界中の研究者が根本的なメカニズムの解明およびそれに基づく治療法の開発に取り組んでいます。

鳥居 その中で、バイオレットライトという光に、近視進行を抑える可能性があることがわかりました。

──バイオレットライトとは何か教えてください。

鳥居 バイオレットライトとは、簡単に言うと太陽光に含まれる紫色の光で、波長は360〜400nmの領域です。JIS (JIS Z 8120:2001)/CIEは可視光下限を360nmと定義しているためバイオレットライトは可視光に属し、実際に紫色に見えます。紫外線よりも波長が長く、ブルーライトよりも短い光ということになります。

鳥居秀成「バイオレットライトと近視進行抑制あたらしい眼科」(2017) より

──どうして近視の進行が抑えられるのですか?

鳥居 バイオレットライトには、眼軸長の伸長を抑制する可能性があるのです。

栗原 バイオレットライトが目に入ると、近視進行を抑制するとされている「EGR1(Early Growth Response 1)」という遺伝子が活性化されるということがわかっています。

──バイオレットライトに近視進行抑制の効果があるということは、バイオレットライトを浴びる時間を長くすると良いのでしょうか?

鳥居 そう考えられます。しかし、バイオレットライトは蛍光灯やLEDなどの室内の光にはほとんど含まれておらず、UVカットの窓ガラスはバイオレットライトも同時にカットしてしまうことがほとんどなので、室内にいるとほぼ浴びることがない光だといえます。

そこで推奨されているのが、屋外活動を2時間以上するということです。つまり子どもたちの場合は、外で遊ぶというのが大切になってきます。今は外出自粛のため、なかなか思うように外出できない状況になってしまっている(2020年4月時点)ので、近視の進行が心配ですね。

栗原 これまで市販されている眼鏡やコンタクトレンズはバイオレットライトを通さない製品が多いのですが、最近、バイオレットライトを取り込めるメガネやコンタクトレンズなども開発されてきているようです。

レンズが通す光の波長の差に着目

──バイオレットライトに着目した経緯を教えてください。

鳥居 近視を矯正する手術に「有水晶体眼内レンズ挿入術」という、いわばコンタクトレンズを目の中に入れるような手術があります。これによって裸眼でも遠くが見えるようになり、患者さんにもとても喜ばれるのですが、どうしてもその後再び近視が進行してしまうことがあります。

術後の患者さんの眼軸長の伸びを調べてみると、使用する有水晶体眼内レンズの種類によって、眼軸長の伸びに違いがあることに気が付きました。要因はいったい何なのだろう、とさらに研究を進めていたころ、当時はちょうど「屋外活動によって近視の進行が抑制される」ということが近視研究の世界でわかってきた頃でした。そこで、屋外と屋内の違いを考え、光環境に着目しました。

栗原 冒頭でもお伝えしたとおり、近視の発症・進行メカニズムは不明な点が多く、進行抑制などの治療についてもまだ確立していなかったので、鳥居先生から研究結果を聞いたとき、これはパラダイムシフトになるような発見ではと感じました。

──その後どのように研究が進められたのですか?

鳥居 先ほどお伝えした手術に使用していた有水晶体眼内レンズの分光透過率(どの波長の光を通すのか)を調べてみると、ちょうど360〜400nmの部分、つまりバイオレットライトの透過率にレンズの種類によって差があることがわかりました。その時点では、「こんなに小さな波長の違いが本当に差を及ぼすのだろうか」と半信半疑でしたが、近視研究で広く用いられるヒヨコにバイオレットライトを当てて実験を開始してみると、バイオレットライトを当てていない群と比べて近視の進行が抑制されたという結果が得られたのです(EBioMedicine. 2017 Feb;15:210-219.)。