アマゾン幹部が秘策を明かす「機械学習ビジネス」爆発的普及の条件

世界的覇権を目指す「必勝戦略」とは
西田 宗千佳 プロフィール

スワミ「重要なのは、これらからの学びを、AWSを毎月利用している数百万人の開発者に対してどのように提供するか、ということです。拡張性が高く、信頼性が高く、費用対効果の高いプラットフォームを提供することが、私たちの使命ですから」

アマゾンだから、できること

スワミ氏は同時に、現状は「まだ普及初期の段階にすぎない」ともいう。

スワミ「機械学習の採用は、まだまだ初期段階にあります。アマゾンの中では『機械学習時代の1日目(デイワン)』と表現することもありますが、実際のところ、まだ目覚めたばかりでコーヒーすら飲んでいない状態といってもいいかもしれません」

これだけ使われているのに「コーヒーを飲む前の段階」ということは、それだけ活用の幅が広い技術である、ということでもある。前述のように、社内で「広く使う」方針を定めたのも、そうした理由に基づくが、「開発の簡便さ」「利用効率」も重要だ。

スワミ「すべての用途で、学習モデルまで含めて開発する必要はありません。我々が最初から学習セットを用意したサービスもあります。私たちはそうしたものを『AIサービス』とよんでいますが、音声をテキストに、テキストを音声に変換するものや、画像の中に何があるかを分析する機能、パーソナライゼーションサービスを構築して予測などをする機能も提供しています」

この「予測サービス」は、アマゾンで日々利用されている「レコメンデーションエンジン」の能力や売り上げ予測技術を他のサービスで使えるものだ。「アマゾンだからこそ、できること」でもある。

日本企業が先端を走る領域

スワミ「効率に関しては、重要な点があります。

『機械学習のトレーニングに負荷がかかる』といわれることが多いのですが、長く大規模なディープラーニングを実行してきた私たちの観察では、実際には、クラウドで機械学習を使う場合、コストの90%が、推論(データに対し、機械学習からのルールを当てはめて分析する作業)に費やされてしまうからです。推論をより効率的に処理できるインスタンスの構成が、インフラとしては重要です」

推論をより効率的に処理できるインスタンスの構成がインフラとして重要、と話すスワミ氏(2019年に上海で開催されたWorld Artificial Intelligence Conferenceでの同氏) photo by gettyimages

もう1つ、現在新たに重要になってきていることがある。「機械学習を使う場所」が増えていることだ。ネットサービスの中だけでなく、家電や監視カメラの中にも、できるだけローカルだけで動く「AI」が組み込まれるようになってきた。

スワミ「1つの強みは、さまざまなスケールで弊社の技術が使える、ということでしょう。機械学習をどうスケールさせて使うかは、大きな技術的課題でもあります。

今は、1つの機械学習モデルを構築し、それをクラウドで使うだけでなく、メモリーやCPUの制約が異なる「エッジコンピューティング」でも用いる必要があります。日本企業は特に、このエッジの部分ではパイオニアといえる存在です。

弊社では、機械学習モデルを構築する『SageMaker』に、エッジ用のモデル構成・最適化サービスである『SageMaker Neo』を開発しました。それを使って、ドライブ中の道路状況や交通状況をリアルタイムに把握できる画像共有サービスも開発されています」

 

「機械学習」時代の覇者になる戦略

機械学習の利用を促進するうえで、AWSが採ってるユニークな方法がある。それは、「学習用のハードウエアを売る」ことだ。

たとえば、エッジでの画像認識を学習するための「AWS DeepLens」。

カメラがセットになっていて、AWS上で数時間学習を進めるだけで、画像認識機能を持つ監視カメラをつくることができる。2018年には、自動運転機能を備えた模型自動車「AWS DeepRacer」をつくって全世界で「自動運転レーストーナメント」を開催した。2019年には、音楽の「自動作曲」を機械学習で学ぶ「AWS DeepComposer」を発表している。

手前が自動作曲用の「DeepComposer」、奥側左が自動運転学習用の「DeepRacer」で、同右が画像認識学習用の「DeepLens」だ

これらは本格的な製品ではなく「おもちゃ」に近いものだが、こうしたハードウエアをわざわざ出すことの狙いは、「開発者の取り込み」にある。

スワミ「多くの企業が機械学習を完全に採用していない大きな理由の1つは、スキルギャップが存在しているからです。

私たちが理解したのは、『機械学習を使いたいが経験がない』という人々は、実際にはソフトを書く経験もしたことがない、という点です。

しかし、『DeepLens』などのハードウエアは、ほとんど開発の経験がなくても使えます。おもちゃ的なものではありますが、開発者が実際にこれらの技術を『触りながら学ぶ』ことで、効果を高めることができます」

大規模なサービスからエッジでの利用まで、幅広く対応することがAWSの強みだ。クラウドというサービスが普及するうえで、AWSは「クラウドとはなにか」という認知を広げ、利用拡大を促してきた実績がある。

機械学習についてもその考え方は変わらず、いかに「開発を助けて裾野を広げるのか」ということを重視している、といっていいだろう。