アマゾン幹部が秘策を明かす「機械学習ビジネス」爆発的普及の条件

世界的覇権を目指す「必勝戦略」とは
西田 宗千佳 プロフィール

スワミ「ルールベースの人工知能の初期の頃からみて、間違いなく過去8年間で、機械学習の採用は大幅に加速しています。機械学習のアルゴリズムは、非常に計算量が多く、必要なデータ量も多いのですが、クラウドのおかげで、この2つの要素を簡単に利用可能になりました」

画像認識や音声認識はわかりやすい例だが、その使い方も多彩だ。身近な例としては、利用者の多いレシピ共有サービスである「クックパッド」が挙げられる。

レシピ共有サービス「クックパッド」

クックパッドでは日々、さまざまな料理に関する写真がアップロードされているが、その内容を個々に判別するのは、とても人手では不可能だ。そこで、画像認識で写真の分類がおこなわれている。レシピの内容も、自然言語処理によって分類・翻訳されるしくみになっている。

宿泊施設の貸し出し仲介サービスとして知られる「Airbnb」も、アメリカのプロフットボールリーグである「NFL」も、データの分析にAWSの機械学習インフラを使っている。医療に使われるX線やCT、MRIなどの画像データ解析に使うところも出てきているし、医療関係用語を特別に学習した「Amazon Transcribe Medical」というサービスをAWS自身が提供し、医療現場での迅速なデータ蓄積に活用されている。

 

まずは「社内」で使い倒せ!

こうした機械学習の活用は、すぐに生まれたものではない。機械学習への注目が集まるなかで、「どう使うべきか」という点への理解を深める必要があった。アマゾンがそこでおこなったのは、「自社の中でまず活かす」ということだった。

スワミ「アマゾンは20年以上にわたり、機械学習を使ってきました。ショッピングでのレコメンドもそうですが、フルフィルメントセンターで、顧客が注文したときに予測アルゴリズムを使って効率よくそれを処理する方法など、さまざまな分野で使用しています。

また、音声アシスタント技術である『Alexa』を搭載した『Echo』デバイスのようなビジネスも、機械学習があってのものです」

Echo Studio (エコースタジオ) photo by gettyimages

こうした流れが、単に「アマゾンの一部でおこなわれてきた」わけではない、という点に注意が必要だ。レコメンドの担当者やAlexaの開発チームだけが機械学習を使うとは限らないからだ。

スワミ「6年前、アマゾンのリーダーシップチームは、機械学習について戦略的に『伝道していく』ことを決めました。すべての部署で、クラウドコンピューティング部門を実行しているかどうかに関係なく、全体的な戦略の一部として『機械学習を使用しなければならない』と決めたのです。財務やサプライチェーンや人事も含む、すべてのセクションで、です」

人は毎日、大量のデータを読み、そこから判断を繰り返してビジネスをしている。膨大な時間を要するその手間を少しでも軽減できれば、ビジネスの効率はさらに高まる。また、機械学習によって新たな「可視化」「データ化」の方法が見つかれば、通常では気づけない知見を得ることも可能だ。

それは当然、新しいビジネスの種になるし、現在の働き方をさらに効率化することにもつながる。「誰もが自分の業務に使う道具」になって初めて、テクノロジーは民主化し、ビジネスを変えるものになるからだ。

とはいえ、その道のりは平坦ではない。世界を代表するITジャイアントであるアマゾンの内部でさえ、例外ではなかった。

アマゾンがつくった「大学院」

スワミ「彼らには突然、機械学習を活用するために、新たにスキルを学ぶ必要が生じました。それを支援するため、社内には『Machine Learning University』というしくみがつくられた。いわば、大学院式のカリキュラムのようなものだと思ってください。

機械学習の基礎を教えるものですが、その他にもいろいろ取り組んでいます。コンピュータビジョンとか自然言語処理、音声認識など……。すでに5年以上運営し、膨大な数のエンジニアやプロダクトマネージャー、プログラムマネージャーが、機械学習についての教育を受けています」

「Machine Learning University」は現在、その一部が外部に対して無償公開されている。もちろん、機械学習を多くの人に学んでもらい、AWSの利用を促進することが目的だ。

スワミ氏が続ける。