20年以上続く人気漫画

伊藤理佐さんの漫画『おいピータン!!』は、主人公の「とある事情」により『おいおいピータン!!』とタイトルを変えはしているものの、「Kiss」で20年以上連載が続く人気漫画。手塚治虫短編賞も受賞している傑作だ。生きるためになくてはならない「食べる」を中心に、人生のあるあるを見事に描き出している。ムカッとすることも、うなずきながら読みつつブハッと笑って、なんだかスッキリしてしまうのである。

そんな作品からランダムに選んで試し読みをしつつ、そこに描かれた人間模様を考察する連載「おいピータン!!人間学」。今回のテーマは「カレーとホラー」だ。
ちなみに考察は伊藤理佐さん自身によるものではなく、FRaU編集部が伊藤さんの漫画を読んだ上で客観的に分析しているものである。

マンガ/伊藤理佐 文/FRaU編集部

「カレー心」に取りつかれると…

伊藤理佐さんは『おいピータン!!』の中で「カレー心」という名キャラクターを生み出した。「カレーが食べたい」となるともはやカレーの事しか考えられなくなるメンタルに命が吹き込まれたようなものが、「カレー心」くんである。

きっかけはどこからともなく漂うカレーの匂いだったり、CMやグルメ番組だったり、ちょっと聞こえてきた会話だったり、ほんの小さなこともある。それまで寿司モードだったのにカレーモードになることもあるくらい、「カレー心」の威力はすごい。やはり「カレーライス」は絶対的な日本人の国民食なのだ。

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日本独自の「カレールー」ができるまで

「カレーは万能」という意見に対しては、日本人の9割(推定)には賛同いただけるのではないだろうか。困ったときはカレー。大勢ならカレー、メニュー迷ったらカレー、初めての店で注文するならカレー、学食や社食もカレー。その「万能感」の立役者は、日本の大発明の「固形カレールー」だといえる。これにより、玉ねぎ炒めてスパイス炒めてカレー粉投入して……という「味キメ」の手間をすっ飛ばし、とろみも含めて安定したカレーの味が保証されるからだ。海外ではペーストで売っているものはあれど、ここまで「誰が作っても美味しくなるカレールー」は日本独自のものだ。

ハウスのHP によれば、日本の家庭にライスカレーが広まったのは明治初期。「少年は大志を抱け」で有名なクラーク博士の命により、北海道の札幌農学校(現在の北海道大学)学生寮で1日おきに夕食に出されたのだという。この頃はイギリスのC&B社のカレー粉が利用されていたらしい。

しかし、昭和6年にC&B社のカレー粉が安価な国産品と入れ替えられていた「事件」が起こり、「違いがわからない」「実は国産も美味しい」ということに気づいたことで国産のカレー粉が発展していったといわれている。……と「日本のカレー史」をまとめていると一冊の本になりそうなのであとは省略するが、こうして日本独特のカレー人気は昭和初期に爆発し、戦後になって家庭でもできる固形のカレールーが完成したという。

「カレーの万能感」を信じすぎて…

こうして日本の国民食となり、「困った時はカレー」と言えるほどに万能感のあるカレー。特に夏休みは学童保育でも「いつもはお弁当だけど週1回はレトルトデー」として学童でレトルトカレーを温めてくれるようなイベントが行われているところも多い。親からしたらご飯だけ持たせればいいから「カレー様様」だし、子どももその日を心待ちにしていたりする。レトルトカレーさえ用意しておけば大丈夫。今日はカレー作ったから大丈夫。カレーはそんな「食事界の救世主」的存在なのだ。

しかし、筆者はそのカレーの万能感に頼りすぎて痛い思いをしたことがある。
仕事で遅くなる、しかもたくさんの品数をあらかじめ作っていく暇はない! という日のこと。おっしゃ、カレー作ってけばなんとかなる!  
朝のうちにカレーを作り、炊飯器の予約をして仕事に行き、夜9時ごろに帰宅すると、ふたりの子のうちの姉がご飯を食べていないという。えっ、なんでよ! カレーとスープ作っていったじゃん! というとひと言、

「給食がカレーだったから、カレー食べたくない」

そうなのだ。カレーは誰にとっても救世主だから、カレー×カレーとなりがちなのだった……。ちなみに弟は朝昼晩毎食カレーでもいいタイプで、そういう人も少なくないはずだ。

そのカレーを題材に、伊藤理佐さんが今回描いたのは夏にふさわしい「怪談」。なぜカレーとホラー? 実はこの漫画のメインストーリーのテーマは「間違い電話」だ。深夜に間違い電話をかけられた女性が恐怖に陥る。確かに、「間違い電話」がくると、この電話番号一体何だろうとみなさん気になるはず。しかもその番号から何度もかかってきて、留守番電話に謎のメッセージが山ほど録音されていたら……考えるだけでも鳥肌ものである。

で、それがなぜカレーと関係するわけ? とまったく結びつかないと思うのだが、それは漫画をお読みいただくとしよう。

しかしこうして原稿を書いていて、すっかり筆者は「カレー心」にとりつかれてしまっている。今日はチキンカレーにするか、ポークにするか、夏野菜カレーか……「どんなカレーがベストか」というテーマで議論するだけで、これまた一晩飲み明かせそうだ。