「ついしたくなる」で人の行動を変える『仕掛学』の奥深き世界とは?

きっかけはAIにはできない「気づき」
リケラボ プロフィール

楽しい共通体験が仕掛けの決めて

──行動変容という点では、ノーベル賞を取ったナッジ理論(※)との類似性がありそうです。

松村 人の行動を変えるという意味では、確かにオーバーラップしている部分はありますが、決定的な違いがあります。背景となる原理がまったく異なるのです。仕掛けは選びたくて選んでしまう行動を生み出します。それに対してナッジはソーシャルプレッシャーを与えたり、デフォルトを変えることによる選びたくないけれど選ばされてしまう行動が多く、人を笑顔にする視点はないと思います。

※ナッジ理論:ナッジ(=nudge)とは「ひじを軽くつつく」という意味。対象者に選択の余地を残しながらも、より良い方向に誘導する手法であり、経済学者のリチャード・テイラー氏が提唱した。同氏は、これによりノーベル賞を受賞している。

──だから仕掛学では、いわゆるFADが要件となるわけですね。

松村 そのとおりです。仕掛けのFAD要件とは、Fairness、Attractiveness、Duality of purposeの3点です。Fairnessとは公平性で誰も不利益を被らないこと、Attractivenessとは誘引性で行動が自然と誘われること、さらにDuality of purpose、目的の二重性とは仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なることです。

例えばバスケットボールのゴールの仕掛けを施したゴミ箱の場合を考えてみましょう。ゴミをゴミ箱に入れるのだから、もちろん誰にとっても不利益などありません。さらにゴールがあれば、人は自然とそこにゴミを入れたくなる。そして仕掛ける側の目的は「ゴミを散らかさないようにすること」ですが、仕掛けられる側の目的は「ゴミをゴールに入れて楽しむこと」です。

ゴミ箱の上にゴールが仕掛けられていると、自然にそこにゴミを入れようという気持ちになる。

──ゴールは入れるためのもの、という認識が前提として共有されているからですね。

松村 そこが重要で、仕掛けのポイントは過去の共通体験の利用なのです。みんなが知っているものを、意外な形で活用する。これを私は「文脈を変える」と表現していますが、動物園のライオンの口は、映画に出てきた真実の口の文脈を変えたものです。大阪でJR西日本と提携して、できるだけ階段を歩いてもらうために仕掛けた「大阪環状線総選挙」は、AKB総選挙の文脈を活用しました。過去にみんなが楽しい体験をした何かを仕掛けに使うと効果的です。だから完全にオリジナルな仕掛けではない方が伝わりやすいとも考えられます。

混雑や問題発生の要因となるエスカレーターの利用を減らし、階段の利用を促進する仕掛け。「福島派」「天満派」と色分けされた階段を登るとセンサーにより投票としてカウントされる。

──仕掛学は産学連携にも活用できそうです。

松村 社員の行動を変える仕掛け、具体的には残業を減らして定時に帰る、あるいは会議の際に発言を増やすなどの仕掛けについて協力した経験があります。ほかにも商品開発に関わったりキャンペーンや社会貢献的な活動に取り組んだこともあります。研究で考えている仕掛けは、基本的にあまりコストのかからないものばかりですが、コストをかければ仕掛けのクォリティはいくらでも高められますから、仕掛けの有効利用の可能性は広がります。

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