Photo by getty images

原発賠償金で9億円を騙し取った「わるいやつら」の正体

謎の女将が暗躍

震災から9年が過ぎた。東電の賠償金は悪人たちに狙われ、企業の社長たちも不正にかかわった。詐欺の「加害者」であり、事故の「被害者」である彼らは、それぞれの罪を背負いながら、いまを生きている。発売中の『週刊現代』が特集する。

ハンコを押すだけでいい

「あんた、賠償金はもうもらったかい?」

福島県内で運送会社を営む平子幸雄さん(70歳・仮名)が原発事故の賠償金詐欺にかかわったきっかけは、'15年、知り合いの社長からかかってきた一本の電話だった。

「うちの税理士からは、決算が赤字になってないからもらえないって言われてるんだけど……」

平子さんが返答すると、社長は自信満々にこう切り返した。

「いや、一銭でも二銭でもなればいいべ。ハンコを押すだけでいいのよ」

「そんなことできるのかい?」

「磐梯熱海に『藤本』っていう旅館がある。そこの女将が、賠償金請求をよく知ってるよ」

半信半疑ではあるものの、駄目でもともと。平子さんは温泉旅館へと向かって車を30分ほど走らせた。

旅館から出てきたのは、50代くらいの地味な女だった。平子さんは賠償金の件でと告げ、旅館に足を踏み入れた。

「1回も申請していないなら、なんとかなるかもしれないね。あと、もし賠償金が入ったら申請書を作る分の手数料をもらうからね」

女将は手慣れた様子で、「'12年の決算書を持ってくるように」と話を進めていった。いったいいくらもらえるのか。数字に弱い平子さんには分からなかったが、促されるまま申請書にハンコを押し、手続きは完了した。

平子さんのもとに東京電力から2500万円が振り込まれたのは、それから半年後のことだった。平子さんが振り返る。

「せいぜい1000万円くらいかと思っていたので、東電は気前がいいなと思いました。すぐに旅館の女将の口座に、手数料900万円を振り込みました」

こうして、謎の温泉女将の手引きにより、平子さんは賠償金詐欺の「共犯者」となってしまった。