逃した魚は、大きかった...?

「はぁ」

留美は一人で溜息を吐きながら、表参道のカフェに腰を下ろした。

徳光の予想した通り、ラーメン店での電話以来、佑太郎の言動はどんどん激しさを増した。LINEの返信を数時間しないだけで何度も着信が来たり、職場や自宅に突然押し掛けられそうにもなった。

彼は、元カノの浮気を忘れられないトラウマ男だったのだ。いつか徳光が語っていた拗らせ男の定義にそのまま当てはまる。

結局留美は佑太郎の連絡をほとんど無視しており、もはや彼の名がスマホ画面に通知されるだけで鳥肌が立つ。

そんな中、何気なくアプリを開くと再び直彦のメッセージが目に入った。

『留美さん、何度もすみません。やはりもう一度会ってお話がしたくて…時間も場所も留美さんに合わせますので。お返事待ってます』

そして留美は思いきって、仕事終わりの表参道に直彦を呼び出してみたのだ。

「留美さん、お待たせしてすみません!普段はリモートなんですけど、今日はたまたま出勤日で遅くなりました」

何気なくInstagramを眺めていた視線を声の方に向けると、頬を上気させ、肩で大きく息をする直彦が申し訳なさそうな顔をして立っていた。

濃紺のスーツが、彼の瑞々しい若い肌を引き立てている。20代の男というのは、これほど美しい生き物だっただろうか。

「大丈夫よ、私も急に呼び出したし......」

思わず気後れして直彦から目を逸らす。変わった男だが、やはり外見は好みすぎる。

「先日は気分を害してしまい本当にすみませんでした。きちんと謝りたかったので、また会えて良かったです......」

「別に、気にしてないから大丈夫よ」

「......いや、でも、本当にすみません」

「.............」

しかしながら、やはり直彦との会話は噛み合わない。

この男は、本当にただ謝罪をするためだけにやってきたのだろうか。「すみません」をひたすら繰り返す直彦に、再び小さな苛立ちが芽生える。

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「で、最近はどう?アプリでいい人見つかった?」

留美は乱暴に会話を投げる。他の話題も思いつかなかった。

「えっと......いや.......」

「私は金融マンやお医者様とデートしてる。あのアプリ、ハイスペックな人が沢山いて楽しいわ。若い商社マンのアプリ事情はどうなの?別に気にしないから教えてよ」

すると直彦は、ボソボソと低い声で近況を語り始めた。初めはアプリの使い方が分からず、マッチングが思うようにできなかったこと。けれど友人の助言により、だんだん要領が掴めたこと。

留美は多少の共感を持ちながら話に耳を傾けていたが、最後に彼は、信じられない言葉を口にした。

「アプリって面白いです。自分の頑張り次第で成果も変わるし。それで実は......」

直彦の目尻が、照れたようにほんの少し下がる。

「今度、花束ランキング1位の女性とデートすることになりました」

NEXT:8月9日更新
直彦の発言に衝撃を受けた留美は思わず妙な提案をしてしまう。二人の関係は予期せぬ方向に...。
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