元高校球児が見た「コロナ禍の甲子園」、大雨とも戦う「神整備の秘密」

雨ニモマケズ、コロナニモマケズ…
朝倉 宏景 プロフィール

選手やコーチたちの多くは、甲子園出場をかけて戦った強豪校出身だろう。甲子園への夢が絶たれている高校3年生の球児たちの心痛は、きっと誰よりも理解できるはずだ。

矢野監督も「このキーホルダーを持っている球児が、いつかプロの選手になったり、阪神園芸に入ったりするかもしれない。そうなってくれたら、うれしい」と、インタビューで語っていた。

甲子園の土を受け取った高校生が、いつかはこの球場でプレーし、あるいはグラウンドキーパーになる。高校生活をかけて打ちこんだ部活での経験が、無駄ではなかったと感じられる将来がいつか来るはずだという、監督や選手たちの応援の気持ちがこの土にこめられている。

贈呈されるキーホルダーが、卒業証書のような一つの「証」になってくれることを願うばかりだ。各都道府県の代替大会を戦い、高校の野球部生活に一区切りをつけられたという気持ちの整理がつけば、矢野監督が話すように、きっと未来にも目が向けられるようになると信じたい。

〔PHOTO〕gettyimages
 

最高のグラウンドをつくる

雨を味方につけながら、雨と戦う。そんな一見すると矛盾する表現がぴたりとあてはまるのが、「聖地」と呼ばれる阪神甲子園球場のグラウンド整備業務を請け負う、阪神園芸株式会社の仕事ぶりである。

適度な雨がグラウンドの底までしみこむことで、イレギュラーの起こりにくい、選手の足にも優しい、弾力のあるグラウンドができあがる。

「グラウンドに自然の雨を当てれば、深さ30センチの土全体に、むらなく水が行き渡る。均等に水分を含んだグラウンドは強い。上の部分を乾かせば、表面はプレーをするのに最適な硬さになるし、深い部分は水が残っているから弾力が生まれ、イレギュラーバウンドを防げるようになる。」(『阪神園芸 甲子園の神整備』金沢健児 毎日新聞出版)

つまり、定期的な降雨がないと、甲子園の土の内野グラウンドは、理想の状態を保つことができないのである。この点が、ドーム球場とは完全に一線を画している。

太陽の光が当たり、雨が降ることで、土を強く保ち、天然芝も青々と育つ。また、黒土と砂で構成されている内野グラウンドも、毎試合前にトラクターで耕すように数センチ掘り返し、攪拌する。下に潜りやすく、かたまりやすい黒土をほぐし、表面に浮き上がらせることでグラウンドの弾力を回復させる、重要な作業である。

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