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史上最小の恐竜、実はトカゲだった!?『ネイチャー』論文は撤回へ

気鋭の恐竜研究者が巻き起こした大事件
好評連載「恐竜大陸をゆく」。今回は過去の記事でもお伝えした、ミャンマー東北部の琥珀から発見された古生物の化石についての続報をお伝えします。

本連載では5月および6月の記事で、ミャンマー東北部で出土する白亜紀の琥珀から小型獣脚類「EVA」の尾をはじめさまざまな古生物の化石の発見を続けている中国地質大学の若手研究者・邢立達(Xing Lida)が、ちかごろ直面しているスキャンダルについて伝えてきた。

古生物の化石を含んだ琥珀を手に講演する邢立達氏 Photo by gettyimages

邢立達は筆者と同じ1982年生まれだ。過去、筆者は彼にインタビュー『もっとさいはての中国』(小学館新書)を参照)したこともあり、恐竜オタクが高じて文系学部出身にもかかわらず名のある恐竜学者になった彼の経歴は尊敬するべきものだと思う。フランクな人柄で、本連載6月号記事のように、自分にとって都合の悪い取材もちゃんと応じてくれる度量がある点にも好感を持っている。

だが、そんな邢立達にまつわる騒動がなかなかやまない。彼には気の毒な気もするが、世間で報じられている以上は伝えざるを得ないだろう。宝石(琥珀)に包まれた化石はビジュアル面で非常に魅力的で、一時期まで世界のメディアも盛んに取り上げていただけに、いちどつまづいた後の騒ぎも世界規模になるのである。

『ネイチャー』論文、撤回

2020年7月28日、邢立達などからなる中国地質大学の研究チームは、同年3月11日付で世界的な科学雑誌『ネイチャー』に発表していた論文「Hummingbird-sized dinosaur from the Cretaceous period of Myanmar(ミャンマーの白亜紀のハチドリ大の恐竜)」の撤回を発表した。理由は分類に疑いが生じたことだ。

そもそもこの論文は、邢立達らがミャンマー東北部で発見した琥珀のなかから、史上最も小さいとみられる「恐竜の頭」を見つけたとするものだった。論文によれば、この化石の後頭部から口先までの長さはわずか1.5センチであり、幅は親指の爪ほど。世界最小の鳥であるマメハチドリとほぼ同じ大きさであり、生前の体重はおそらく2グラム以下だったとされる。

邢立達らはこの化石を「オクルデンタビス・カウングラアエ(寛婭眼歯鳥:Oculudentavis khaungraae)」と命名。始祖鳥やジェホロルニス(熱河鳥:Jeholornis)に近い仲間で、約9900万年前に生息した新種の恐竜か鳥類であるとした。

邢立達らの発見が表紙を飾った2020年3月号の『ネイチャー』

鳥類は恐竜から分かれた生き物であり、両者の厳密な線引きは困難だ(語弊を恐れずに言えば、始祖鳥のような中間的な生き物を鳥とみなすか恐竜とみなすかは、なかば研究者の好み次第という部分がないでもない)。ゆえにオクルデンタビスの場合は、おそらく「恐竜」であろうとされた。

これまで、恐竜の身体が琥珀のなかで生前に近い状態で保存されていた事例は2016年のEVAしかない。今回のオクルデンタビスは頭がそのまま保存されていたうえ、「史上最小」である。これが恐竜だとすれば、EVAの発見を上回る恐竜研究史でも有数の大発見だ。