「黒人は何を歌ってきたのか」が差別的質問になりうるワケ

「黒人の歌」のイメージからの脱却
ウェルズ 恵子 プロフィール

黒人民謡の特徴とは?

アメリカ社会が無視し、かつ黒人自身が白人社会に全容を隠したまま歌われていた黒人歌は、実に豊かで無数にあったと想像される。北部出身のメアリ・リヴァモアは、奴隷制時代に南部を旅行して、「黒人はいつも歌っている」と回想録に記した。

南部では、プランテーション(大農場)ごとに奴隷にされていた人々の言語が微妙に異なり、会話による奴隷同士の連帯が困難だった一方で、音楽やある種の音色による発声がコミュニケーション手段になっていた。

それを裏付けるように、リヴァモアは、異なるプランテーションで奴隷になっている黒人の集団が出会ったとき歌で挨拶を交わしていたとも記録している。しかし、黒人の歌がどんな情報を伝えていたかについては詳しくわかっていない。

 

奴隷制時代の黒人民謡を大まかに分けると3種類ある。

まずはフィールドハラー(ブルーズのルーツ)や港湾での積み下ろし歌、綿摘み歌、舟漕ぎ歌といった、仕事と生活にまつわる多様な歌。それから、黒人独自の宗教集会で歌われていたシャウト(一部ロックンロールのルーツともいわれる)や黒人牧師が創作した讃美歌(ゴスペルソングのルーツ)、黒人霊歌の源流であるその他の宗教歌。さらに、ダズンズと呼ばれるケンカ遊び歌やトーストという物語歌(ラップのルーツ)、子供歌などの娯楽歌。

そして、黒人民謡には次の特徴があるとされる。

(1)共同創作、(2)コール・アンド・レスポンス、(3)合唱部分はリフレイン、(4)即興のメロディーと歌詞、(5)多様な音楽的装飾(slurs, bends, shouts, moans, groans, cries)、(6)個人が原旋律を離れて装飾を行いつつ歌うグループ歌唱、(7)複合的なリズム構成、(8)歌唱に身体動作が伴うこと(Encyclopedia of African American Culture and History 1523)。

加えて、(9)一定の韻律にのった常套表現や音楽的装飾のひとまとまりが多数あり、それらが、まるでモザイクのようにさまざまな歌に嵌め込まれ、使いまわされる。アフリカ音楽の伝統を汲むこれらの特徴は、現代の黒人系音楽に継承されている。

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