ダウン症はない、でも……

結果を聞く日、医師がテーブルに置いた染色体の写真に、佐野さんの視線は飛びついた。もちろん、ダウン症ならば3本になっているはずの21番染色体を見たのだ。

「そうしたら21番は2本で正常だったんです。 それで、わあっ、と安心したとたん……」

次の瞬間、佐野さんは性染色体を指さして「あ、1本しかない」と言っていた。

「そうなんですよ……」
医師はそう言い、その瞬間から、佐野さんは、ターナー症候群という未知の世界に入って行った。

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佐野さんが、今、果歩ちゃんを育てているのは、ひとえに、この時、医師が紹介してくれた患者と親の会「ひまわりの会」にアクセスして、実際にターナー症候群の娘を育てている母親と話すことができたからだった。
ひまわりの会に電話をすると、会の初代会長で、今はターナー症候群患者団体・連合会会長を務めている岸本佐智子さんが、娘のターナー症候群と共存している生活の様子を丁寧に教えてくれた。岸本さんは、ターナー症候群、早発閉経など生まれつきの理由で妊娠が難しい女性のための卵子提供登録支援団体「NPO法人OD-NET」の理事長でもあり、必要な法的整備を国に求める活動もおこなっていた。

「岸本さんは『産むことを強要はしないけれど、私は産む決断をしても大丈夫だと思っている』と言ってくれて、娘さんの写真を送ってくれたんです。もう、それを見た時に、すごく楽になりました。写真に写っていたのは、普通のとても可愛いお嬢さんだったんです」

それは、ターナー症候群がある女性が「患者」や「症例」ではなく、「大切な家族の1人」として撮られた写真だった。ネット検索で、医学文献に使われがちな写真をたくさん見てきた佐野さんは、岸本さんが送ってきた写真を見てターナー症候群のイメージががらりと変わった。

佐野さんの家族は告知当初は産むことに反対したが、佐野さんが岸本さんからの写真を見せ、それまでに知り得た情報のすべてを話して「私は産みたい」と言うと、最終的には佐野さんの気持ちを理解し、支えてくれるようになった。

佐野さんの妊娠7ヵ月から臨月に向けて撮っていったお腹の記録写真。大きなお腹に置かれた手からは佐野さんの我が子に対する愛おしさが伝わってくる 写真提供/佐野さん