2020年8月4日時点で陽性と診断されたのは東京で309人、全国でも8月に陽性者数の過去最多を記録した自治体が後を絶たない。

そんな中で注目されたのが「安倍首相の沈黙」だ。西村経済産業大臣や加藤厚生労働省大臣が連日会見を行ってはいるが、安倍首相から国民全員に語りかけるメッセージは6月18日以降出されていない。8月4日には1ヵ月半ぶりに会見を行ったが、主にミサイル防衛についての会見で、GoToトラベルについては「官房長官からも西村大臣からも政府の考え方として、お話しさせていただいているわけであります」と述べるにとどめた。毎日のようにSNSでメッセージを配信していたニュージーランドのアーダーン首相や頻繁に国民へのメッセージを発信していたドイツのメルケル首相と比べても、リーダーシップとは何かを改めて考えさせられる。

6月18日に記者会見した安倍晋三首相。以降「国民への語りかけ」は行われていない Photo by Getty Images

池上彰さんと増田ユリヤさんの新刊『コロナ時代の経済危機』は、1929年の世界恐慌、2008年のリーマンショックなど、世界を揺るがす経済危機の歴史から今どうしたらいいのかを考えさせる。本書から抜粋してお届けする第二弾は、世界恐慌のときにフーバー大統領からバトンを受け、経済危機を乗り越えたルーズベルト大統領についてお送りする。

池上彰×増田ユリヤ「コロナ時代の経済危機(1)世界恐慌」はこちら

安倍首相の言葉が響かない理由

池上 2020年4月7日、安倍晋三首相は、緊急事態宣言を発令し、記者会見を行いました。そこで「今、私たちが最も恐れるべきは、恐怖それ自体です」と発言しましたね。 

増田 フランクリン・ルーズベルトが、1933年3月、第32代アメリカ合衆国大統領に就任したときの就任演説の一節なんですよね。池上さんが、安倍首相の会見直後にすかさずテレビで解説しているのを見ました。

池上 安倍首相本人は、それがルーズベルト大統領の演説の一節だと認識して話しているかどうか、微妙な話し振りでしたけれど。 

増田 準備されたものを読み上げているだけという印象がぬぐえないんですよね。もちろん、安倍首相も国民に語りかけようと努力していないわけではないと思うんです。ただ、それがことごとく一般国民の感覚とズレていませんか。 

池上 俳優でミュージシャンの星野源さんが、「自粛要請」に応じて家で過ごす時間のために、ユーチューブでコラボレーションを呼びかける動画を公開したときもそうだったよね。 

安倍晋三公式インスタグラムより

増田 そうなんです。安倍首相は自宅で犬を抱いてくつろいでいる映像をコラボで公開しました。星野さんが「家にいよう」と呼びかけたのを受けて「家にいます」と応えたのでしょう。でも、新型コロナウイルスの感染拡大で困っている人や現場で奮闘している人たちにとって、日本の政治指導者が家で優雅にのんびりしているのを見たらどんな思いになるか。想像力が欠如しているように思えました。 

池上 首相も私たちのために頑張ってくれているんだなと思える動画なら、自分も頑張ろうとなるんでしょうけれどね。
ルーズベルトは、フーバー前大統領が積極的な対策をとらず、世界に恐慌が広がり、不況がどんどん長引き、最悪の状況のときに大統領に就任します。安倍首相のスピーチライターとしては、その未曾有の事態の中で大統領になったルーズベルトの演説から引用して、安倍首相も同じように最悪の事態の中、国民のためにさまざまな政策を立てて実行に移そうとしている、と訴えて国民の支持を得ようと考えていたのでしょう。

増田 その後も新型コロナウイルスに関わる記者会見を何度も安倍首相はしていますけれど、今ひとつ、その会見での言葉が心に響いてこないんです。安倍首相自身は、現状をどう考え理解しているのか、なぜその政策を立案したり、国民に協力をお願いしたりしようとしているのか、ドイツのメルケル首相のように、自身の内から湧き出る言葉で語りかけてほしいんですよね。とはいえ、ちょっとでも突っ込まれるような隙をつくりたくないから、当たり障りのない言葉が並び、体裁だけを整えてしまうんでしょうね。