中国漁船「インドネシア人船員遺体海中投棄」にブチ切れた政府の矛盾

ワクチン開発は中国頼みの風見鶏外交
大塚 智彦 プロフィール

外相会談で王毅外相に直訴

こうした新たな事案発覚なども受けて、インドネシアのレトノ・マルスディ外相は7月30日、中国の王毅外相とのオンライン会談の席で、「インドネシア政府は深い関心をもっている。こうした事案に対する調査を行い、過剰労働や死者の水葬などに関して法に基づいた対処を中国政府に求めたい」と述べて、連続する類似事案への深い関心を示しながら事態の真相究明、再発防止に向けた中国側の協力を求めた。

インドネシア外務省によると王毅外相は会談で「インドネシア側の求めに応じて特に調査を行いたい」といった旨の発言をして今後調査を実施することで合意したとしている。

これより前の7月28日には、ジャカルタの中国大使館から肖干大使を呼んでインドネシア外務省は「これまでの事案の調査」を改めて要求、中国側は「事態を深刻に受け止めている」と述べたという。

しかしインドネシア側は、これまでも同様の申し入れや要請を同大使を通じて何度も行っているものの、その後調査に関する新しい情報も報告もないのが実状といい、中国側がどこまで真剣にこの問題に対処しようとしているかは「疑問」であるとの見方も示している。

一方、インドネシア側はインドネシア人船員への人権侵害が明らかになったことを深刻に受け止め、中国漁船にインドネシア人船員を派遣していたインドネシアの斡旋会社を「人身売買容疑」で摘発、代表者らを逮捕するなど具体的な動きで再発防止に乗り出しているほか、中国漁船の責任者である中国人の身柄も拘束するなど真剣な対応を続けている。

というのも中国漁船の遺体海中投棄は「死者は白い布にくるんで顔をメッカの方角に向けて土葬する」というイスラム教の「葬礼」を無視したものであり、撮影された動画からは禁忌とされるアルコールを遺体に振りかけて船上から海中に投棄する「水葬」方法が明らかになったことが影響している。

こうしたイスラム教を無視した埋葬方法が人口2億6700万人の約88%を占めるイスラム教徒の大きな怒りを招き、それがインドネシア社会の反中国気運の高まりを促しているという背景があるからだ。

中国漁船の船長などは「死亡したインドネシア人船員は感染症の可能性があり、他の船員への感染の危険があった」とこれまで捜査当局に「水葬を正当化」する供述を繰り返しているが、死亡したインドネシア人と同じ漁船に乗り組んでいた同僚のインドネシア人船員などからは「死因は感染症などではなく、過酷な労働による病死、暴力による外傷などである」と証言している。

 

このため中国漁船側が「コロナウイルス感染防止」を自己正当化の口実に利用している可能性が極めて高く、「非人道的で悪質な対応」との見方がインドネシアでは広まっているのだ。