女子部員は怪我後、しばらく松葉杖が必要な生活を送ることになった。もちろんサークル活動には出られなくなったが、Sさんは救護担当の役職として、病院への送迎を申し出た。また、「困ったことがあったら言ってくれ」ということも伝えた。しかし彼女は「ありがとうございます。でも自分で病院に通えるので大丈夫です」と遠慮した。その時のことを彼はこう振り返る。

「思い起こすのもおぞましい話なんですが、僕は怪我をした女性に対し、どこか恋愛的な文脈で近づこうとしていたわけですよね。彼女の危機的な状況を救ったというヒロイズムのような気持ちを抱いていた部分も確実にありました。先輩と後輩という権力構造に乗っかった上、救護担当という役職まで利用しながら自分の恋愛的な欲望を密かに叶えようとしたわけです。

おそらく彼女にはそういった魂胆が伝わっていたのだと思います。サークルの幹部である先輩が、次第に役職や権力構造を利用して自分に恋愛的な感情をぶつけるようになってきた。彼女からすると、あの時助けてくれたのもそういう目的だったのかとなるわけで、すごく気持ちの悪い話じゃないですか。そういう部分で深い絶望や失望を与えてしまったのではないか……」

〔PHOTO〕iStock

このように、Sさんは深い後悔の念を抱えていた。「どう償えばいいかわからない」とも嘆いていた。これをきっかけに2年以上も自らを責め続けてきた彼に対し、「考えすぎでは?」などという言葉を投げかけることは絶対にできない。どう答えればいいのか、私たちとしても迷いながらのコミュニケーションが続いた。

それは「セクハラ」なのか

聞かせてくれた話を総合すると、彼は自分が「セクハラ」のようなことをしでかしてしまったと認識していた。だが、本当にそうだろうか。サークルの幹部という立場や権力を利用して接近し、職務とは無関係の「恋愛感情」を向け、彼女に深い絶望を与えた。こういう筋書きで理解するなら確かにセクハラのように見えなくもないが、実際に彼が取った「行動」だけを取り出すと、トレーニング中に怪我した後輩を病院まで送り届けた、ということになる。

これらは「幹部」や「救護担当」の職務の範囲内だろうし、その後の送迎の申し出も、どう厳しく見積もっても「職権乱用」などには当たらないだろう。車の中で性的な関係を無理やり迫ったわけではないし、送迎の申し出も、彼女の「大丈夫です」という言葉を受けて速やかに取り下げている。

さらに、彼は「深い絶望を与えてしまった」とくり返し述べていたが、これは実際に彼女がそう言ったわけではなく、あくまで自身の憶測にすぎない。彼の取った行動はサークル幹部として適切なものだったし、どう考えてもセクハラには該当しないだろう。「おぞましい」と形容されるものでも決してないと思う。

確かに「心の問題」を持ち出せば彼には下心があったのかもしれないし、彼女の中に警戒心や恐怖心が発生した可能性も否定はできない。でも、それを罪として問うことはおそらく不可能だ。なのでここはいったん「行動」と「心の問題」を切り分け、少なくとも客観的にはSさんの取った行動になんら落ち度はないと理解し、心の問題を持ち出してこれ以上自分を責め続けることはないのではないか──というのが私たちの出した結論だ。