# キャリア # 音楽

「45歳、経験ゼロ」から音楽プロデューサーに…異能の「経営者」の挑戦

「唯一無二の商品づくり」でキャリアを築く
黒川 なお プロフィール

「希少性×独自性」で切り拓いた音楽家への道

2年間じっくり勉強して、作曲までできるようになると、多田さんは自分の実力がどれほどなのか試したくなった。そこで2006年、国土交通省主催の「熊野川オリジナルソング大賞」という全国コンテストに応募することにした。コンテストの主旨は、熊野古道が世界遺産に登録されたことを受けて、熊野川を世間に売り出すことだった。

「自分はどの程度の才能があるのか。コンテストでは、全国でどのくらいの位置にいくのか。模試を受けるような気もちで応募しました」

結果は、なんとグランプリ。賞品の大型テレビが家に届くと、さすがに奥さんも黙ったという。

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「やっぱり評価は大事ですね。グランプリを獲ったことで、歌い手に少しずつ曲を提供するようになり、少し大っぴらに音楽ができるようになりましたから。といっても、得意先や社員にバレるといけないので、長い間ペンネームを使っていました」

素晴らしい結果が残せた勝因は何だったのだろう。

「熊野川がテーマなので、シンセサイザーを使った自然を意識した曲や、和のメロディーがきっとたくさん出てくるはず。だからそこには絶対に手を付けない。そう決めていました。私が選んだのはダンスビートです。

熊野川をテーマに、まさか跳ねたダンスビートの曲は誰も作ってこないだろう。そう考えて勝負をかけました。ポジショニングですよね。希少性と独自性を打ち出せる位置を狙ったことが功を奏しました」

ポジショニングが大事。この意識は、経営者としてビジネスの現場に身を置く中で、自然と体に染みついたものだという。

希少性と独自性は、商品開発の基礎です。どちらが欠けても支持されません。かといって珍しければいいわけではないし、変わったことをやればいいわけでもない。希少価値が高くて普遍的な商品を提供するには、どういったポジショニングが必要なのか。そこを今まで常に考えてきました」

この考え方は、今も変わらず首尾一貫している。

・クラシックにジャズやロックの要素も織り交ぜた独創的なインスト(歌のない楽曲)
・メンバー全員が若手男性の弦楽四重奏楽団
・日本人の美意識や、これまで何かと縁のある熊野の魅力を、演奏を通して世界に発信する
・全曲変拍子 ※後ほど詳述

上記は、LIMがもつ主な特徴だ。これも、多田さんが「希少性×独自性」を追求した末に導き出した1つの答えといえる。