女性に聞かれても喋ってはいけない話

「そういう女に男は騙されるのよ。実際子持ちのママなのに、まだ未練があるみたいだし」

「……」

元カノをかばった直彦に、留美はなおも早口でまくしたてる。

つい30分前、ラウンジに現れた留美は「初めまして」と愛らしい笑顔を向けてくれた。

淳也は「アプリのプロフは基本3割増し」なんて言っていたが、彼女の場合は実物の方がずっと綺麗で驚いた。色白の肌に整った顔立ち、けれど笑うと目が垂れて可愛い。

初めて会ったはずなのに、不思議と安心感を抱くような心地良さもあった。

しかし今、目の前で嘲笑を浮かべる留美はまるで別人のようだ。上から目線のわかったような物言いは、男に口を挟む隙を与えてくれない。

直彦は次第に弁解しようという気が失せてしまった。

「じゃあ私は仕事があるので」

留美は言うだけ言うとおもむろに立ち上がり、振り返ることもなく足早に立ち去った。

「るみさん、ちょっと…」

直彦は小さく声を上げたが、その時にはもう彼女の姿は小さくなっていた。

重い足取りでラウンジを後にした直彦は、スマホを確認して深い息を吐いた。

『初デートどんな感じ?』

淳也からのLINEだった。心の中で思わず舌打ちする。…こんな結果になるならば、浮かれて場所の相談をしたりせず黙っておけばよかった。

『30分もしないで怒って帰られました』

どうせバレる話だ。正直にメッセージを送る。すると予想どおり直後にコールバックがあった。

「お前、一体何したんだ?」

呆れた声で笑う淳也に、直彦は仕方なく事の顛末を説明する。

初対面はお互い好印象だったこと。留美が写真よりずっと美人だったこと。彼女が自然と会話をリードしてくれて助かったこと。

しかし途中で留美から元カノの話題を振られ正直に話すと、そこから急に険悪ムードになって、しまいには黙り込む直彦を置いてさっさと帰ってしまったこと。

「お前…タブーを犯したな。初デートで元カノの話なんかしてどうすんだよ。それは完全に工藤が悪い」

話を終えるや否や「お前が悪い」と断言され、直彦はムッとして言い返す。

「なんでだよ。俺はただ彼女が聞くから答えただけで…」

「聞かれても流すだろ、普通。それにやっぱりお前プロフ文に元カノの話書いてたんだな。まったく余計なことを…。とにかく工藤が悪いよ。すぐにDMして謝れ。で、もう一度チャンスをもらえよ。タイプだったんだろ?とっくに別の男の妻になった女のせいでダメにするなんてもったいないぞ」