昔の女を庇う男の心理

「その元カノ、あなたが思うほど純粋な子じゃないと思うけど」

ぼんやりしていた耳に鋭い声が聞こえ、直彦はハッと我に返った。

慌てて顔を上げる。すると目の前には「ああ退屈」と言わんばかりにソファの背にもたれ、白けた視線を向ける美人が座っていた。

――しまった。つい思い出に浸ってしまった…。

今日はようやくこぎつけた留美との初デートである。

早々にマッチングしたにもかかわらずDMをスルーされ続けたせいで、彼女から『ぜひ一度お会いしたい』と書かれたメールが届いた時は嬉しくてニヤけた。

すっかりアプリの師匠と化した淳也に聞いたら「ベタだけどホテルのラウンジが無難」と言われたのでリッツ・カールトン東京のラウンジを予約し、久々にジャケットまで羽織り気合を入れてやってきたのだ。

それなのに、会話の途中で元カノとの別れをしみじみ回顧するなんて…何をしているんだ、俺は。

慌てて話題を変えようと試みる。しかし直彦が口を開くより、留美の口撃が先だった。

「元カレに“本当はあなたと結婚したかった”なんて、普通言わないでしょ。別れて良かったわね」

あざ笑うかのようにピシャリと言われてしまい、直彦は思わず反論する。

「彼女はそんな子じゃないです…」

別に、わざわざ否定する必要はなかった。それに直彦も薫のあざとさに全く気づいていないわけではない。

「ナオくんと結婚したかった…」などと涙を浮かべておきながら、彼女は年上の外資系金融マンとパレスホテル東京で盛大な式をあげ、それから間もなく妊娠・出産して今では二児のママとなっている。…要領のいい女なのだ。

それがわかっていても、何も知らない他人から悪く言われてしまうと守ってやりたくなる。それが男心ってやつではないだろうか。