20代のヤリ手女と、30代のキレる女

「彼女が結婚したのは、慶應卒、外資系投資銀行勤務の男性です」

留美は飲んでいたカクテルを吹き出しそうになる。

多忙を理由に直彦を振ったくせに、さらに多忙に違いない外銀男とすぐに結婚するなんて、その女は相当なヤリ手ではないか。いや、むしろ直彦と外銀男を天秤にかけていた可能性だってある。

「報告されたとき、本当は僕と結婚したかったと泣いてましたが......こればかりはタイミングなので、潔く諦めました」

「............」

切なそうに目を伏せた直彦に、完全に気持ちがシラけた。

世間には20代でこんな愚直な商社マンを踏み台にし、ちゃっかり外銀男と結婚する女もいるのだ。なのに自分は、32歳にもなって何をしているのか。

「......まぁ、直彦さんなら、もっとイイ人に出会えるんじゃない?」

「難しそうですけど、そうしたいです」

再びカチンとくる。直彦は、まるで留美が元カノ以下だと言っているようなものだ。

「でも、その元カノさん、あなたが思うほど純粋な子じゃないと思うけど」

苛立った留美は、とうとう意地悪な言葉を吐いてしまった。直彦は驚いたように目を見開く。

「元カレに"本当はあなたと結婚したかった”なんて、普通言わないでしょ。別れて良かったわね」

「......彼女は、そんな子じゃないです......」

すると彼は綺麗な顔を歪め、縋るような視線を向けた。その透き通るような瞳に、なぜだか胸がキュッと痛む。

「そういう女に男は騙されるのよ。実際子持ちのママなのに、まだ未練があるみたいだし。じゃあ私は仕事があるので、そろそろ失礼します」

留美は彼から目を逸らすと、強制的に会話を終わらせ席を立った。直彦は黙っている。もう、この男と会うことはないだろう。

また、今夜も失敗してしまった。

たった数日で二回もデートに失敗するなんて、先が思いやられる。こんな思いを、結婚するまでにあと何度経験するのだろうか。

背後に絡まる彼の弱々しい視線を振り切るように、留美は背筋を正してその場を後にした。

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直彦の元カノ話で険悪ムード...。決別した二人は、このまま終わってしまうのか?
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