「商社マンだけは、絶対にイヤ」

――今さら、商社マンかぁ。

仕事後にリッツカールトン東京にやってきた留美は、エレベーターの鏡に映る自分と向かい合い、小さく深呼吸した。

正直なところ、『ナオ29歳』とのデートはイマイチ気が進まない。彼のアプリのプロフィールはたしかに好印象であったが、実は留美は、商社マンという人種がどうも好きになれないのだ。

20代で数えきれないほど商社マンと出会っているが、もちろん「結婚したい職業ランキング」の上位を総ナメする彼らは、結婚相手として不足はないと思う。

あのコミュ力、サービス精神、洗練度......どの男たちも一定以上の爽やかさを保ち、女の扱いにも慣れている。合コンでの彼らの連携プレーの高さと言ったら、「お見事」と感心せずにはいられない。

しかしながら、そんな商社マンたちの口車にまんまと乗せられ、辛酸を舐めさせられた女がどれだけいるか。

彼らは巧妙な低姿勢で女に近づき、女の気分をMAXに高揚させたところでペロリと手籠にしてしまう。商社マンの手にかかれば、その辺のゆるふわOLなんてヘンゼルとグレーテル状態だ。

結局はいわゆる「やり逃げ」状態でトンズラされ、「商社マンだけはもう絶対にイヤ」と強い怒りを抱えた女友達も大量にいる。

それに、大衆の女たちの憧れである“商社マン”に経験豊富な留美が今さら婚活の矛先を向けるのも、何となく悔しいというかダサい気がする。

――まぁ、とくちゃんがやたら推してたし。とりあえずお手並み拝見ね。

けれど、そんな冷ややかな気持ちでラウンジに辿り着いた留美は、自分の姿を見て立ち上がった男に目が釘付けになった。

「留美さんですか?はじめまして、工藤直彦と申します」

――嘘でしょ、本当にヒョンビンなんだけど......。

スラリとした長身に、驚くほどきめ細かい綺麗な肌と、絹のように輝く髪。

自分を、特に「イケメン好き」と思ったことはない。むしろ顔よりもステータス重視で男を選んできた。

それなのに......。

ただ立っているだけで周囲が霞むほどの透明感を放つ男を前に、留美は言葉を失ってしまった。