コロナで大逆境の「木下サーカス」、一人もクビにせず「奇跡の復活」へ…!

世界のサーカスが潰れるなかで…
山岡 淳一郎

大きな家族のような組織

休演期間中には、木下氏の奨めで日本人団員の4〜5人がフォークリフトやユンボ、溶接工事、クレーン玉掛けなどの免許を取った。重機の操作ができる者が増えれば、場越しもよりスムーズに運ぶ。とともに免許はサーカスから引退した後のセカンドキャリアを築く際にも役に立つだろう。木下サーカスは、大きな家族のようなつながりを保ちながら逆風をしのぐ。そこが前述のシルク・ドゥ・ソレイユと異なる点だ。

ソレイユは、大道芸人だった創業者、ギー・ラリベルテらが保有していた株式の90%を5年前にアメリカや中国などの投資ファンドに買い取られた。ファンドの意向を受けた経営者は3000人以上の劇団員を解雇し、興行の復活を期すという。

今年2月にドイツで行われたシルク・ドゥ・ソレイユの公演〔PHOTO〕Gettyimages
 

利回りを追うファンドは損が生じたら劇団員を使い捨て、冷徹な市場原理で動く。かたや木下サーカスは大家族的なかかわりを維持して再起を期す。ポスト・コロナ時代にどちらがふさわしいのか。

金沢での休演中、木下サーカスの団員たちはより深く、地域になじもうとさまざまな活動を行った。5月初旬、演技監督の千葉るみさんら女性団員はミシンをフル稼働してカラフルなガーゼマスクを350枚作り、2か所の福祉施設に届けた。チェック柄やリボン柄の布を取り寄せ、裁断から縫製、個包装までこなしている。

千葉さんは異色のアーチストだ。幼いころからアトピー性皮膚炎でいじめを受け、社会に出てからも壁にぶつかった。木下サーカスのアルバイトに採用され、案内係としてテントに入って衝撃を受ける。ショーが始まると、招待されていた障害を持つ人たちが立ち上がって叫び、懸命に手を叩くのだ。ストレートな反応に涙があふれた。

ハンディキャップを背負う人たちをこれほど解放するサーカスって何だろう。27歳で木下サーカスに入団し、空中芸を身につける。不思議なことにアトピーはいつの間にか完治した。