父親は所有する土地にアパートを何棟も建てていました。生活も派手でしたから、てっきり経営は健全なものと思っていたのですが、建物の建設費などに何億円もの借金が残っていました。それをきちんと返済できるほど利益を出せるかどうか。中田さんはその自信がなかったのです。
結局は親戚たちが彼女を推していることもあって、父親の代から雇っていた数名の従業員と一緒に妻の彩香さんに任せるのが一番と考えたのです。
親戚中から白羽の矢が立てられるだけあって、彩香さんは、徐々に事業を成長させました。基本は都内で不動産賃貸業を営んでいましたが、日々の不動産の管理はもちろん、空いた住戸のリノベーション、客付け、苦情対応まで、彼女なりの工夫と努力でこなしていきました。
保有していた物件の中には築40年以上の古い物件もありましたが、女性の視点を生かして小ぎれいにリフォームして、周囲の物件との差別化を進めていったりもしました。
その甲斐もあって、空室は埋まり入居率が7割を切っていたものが、98%程度まで回復。しかも、主婦のコスト意識を生かしてリフォームには無駄なお金を使わないなど、抑えるところはきちんと抑えた結果、借金は彼女が引き継いでからの10年間でほぼ半分にまで減ったのです。
しかしここで問題が起きます。
不動産業の業績が良くなるに従い、従業員が中田さんを飛び越えて、すべて彩香さんに相談するようになったことに、中田さんが嫉妬を感じるようになったのです。
「そりゃあ妻が仕切っているのは事実です。しかし所有者はあくまで私。それなのになにかあるとすべて妻に相談して、私は完全に蚊帳の外。みんな妻に洗脳されているんじゃないかと思いました」(中田さん)