「生産性」と「役に立つ生」に憑かれた、私たちのグロテスクな社会について

生産性に抗するラディカルな生
木澤 佐登志 プロフィール

もちろん、すべてが僕の妄想であったなら、どれだけ素晴らしいことだろう。支援団体は善良な社団法人が主宰しており、住人はちゃんと国からの福祉を受け取っている。理事は、いつも「家族たち」のことを想っている。Tさんは今では日々の労働に生きる喜びを感じている。直に昇給して、いずれは正社員も夢ではないだろう。きっとそうに違いない。カメラには映っていないけども、きっとそうなのだ。それで何の問題があるのか?

 

事実、僕の両側で食事を摂っていた両親も、この特集にとくに何の疑問も抱かなかったらしい。これが「普通」なのだ。だとしたら、おかしいのは僕の方なのだろう。僕が妄想でこしらえた下手くそな即興劇を頭の中で上演してみただけ。結局、そうに違いないのだとしたら……?

僕は箸と茶碗を置くとおもむろに立ち上がり自室に戻った。いつものように睡眠導入剤を口に放り込むと、やがて浅い眠りについた。

夢を見た。「使命」を果たせなかった人々が社会の外に次々と投げ出され、その空漠の中で、彼らの亡骸が天に向かって、堆(うずたか)く積み上げられていくのだった。

初出:『群像』2019年10月号「生産性に抗するラディカルな生」(ウェブ向けに表記を改めた部分があります)
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