稲見先生が思い描く“オーバーコロナ”
このように、情報技術をうまく使うことでより人間が自由になれるという点を伸ばしていけば、情報技術は、単にウイルス感染防止という防衛的なツールではなく、もっと積極的な意味での可能性の拡大につながります。これを我々はコロナを超えるという意味で“オーバーコロナ”と呼んでいるのですが、そこを目指し、今まさにいろいろと急ぎチャレンジしているところです。
研究者は、製品やサービスを直接提供するまでできるわけではありませんが、世の中の見方を変えることはできると思っています。我々の研究成果を通じて、びっくりしたり、思わず笑顔になる体験をしてもらい、結果的に誰かの世の中の見え方が変わる瞬間を増やしていきたいですね。

好奇心を大切に、時には環境にゆだねて世界を広げる
──稲見先生の研究室のホームページを拝見して、研究室の選び方など様々な選択肢のヒントが示されていることに感動しました。進路を考えるうえで大切にするべきことをぜひここでも教えてください!
自分が「好き」だと思っていることにとらわれすぎないほうがいいかもしれません。私は以前、人機一体を実現するためには、まずは機械と接続できる臓器を人為的につくる必要があると思って、分子生物学やバイオセンサの研究をしていたんです。
でも、研究を続けるうちに、私の場合はどうやら情報系やロボット系の研究文化のほうが水が合っていて、周りの人にも喜んでもらえるということに気がつきました。プロとして研究を続けていくには、他者に価値を認めてもらえることも大切だと思い、博士課程から今の分野を専門にしました。
それと私がよく学生に言っているのは、「時には回らないお寿司屋さんに行くくらいの気持ちも大切」ということ。回転寿司に行くと、どうしても自分の好物を選んでしまいますよね。でも、回らないお寿司屋さんに行っておまかせを頼んでみると、自分が知らない魚を食べて、そのおいしさを知る、つまり世界が広がることがあります。このように、あえて他者や環境にゆだねてみるという考え方は、研究においても重要です。
──どんな点で重要になってくるのでしょうか?
イノベーションは、新結合によって起こります。そこで、自分の専門とは違った分野の人と積極的にコミュニケーションをとり、その人の「おまかせ」を聞いてみて世界を広げることがものすごく意味のあることになってくるのです。相手にとって当たり前のことが、自分たちの分野ではものすごく珍しかった、なんてことがあるわけですからね。
私も学生時代から先輩や先生方との出会いに恵まれたのもあって、お話を聞いたり、議論を交わさせていただくことに喜びを感じてきました。研究においてユニークな発想を生むためにも、進路を考えるうえでも、「好奇心」を持つこと、そして今自分が好きな世界の外側に広がる様々な分野に触れてみることは、とても大切だと思います。