「右派が持っていて左派に決定的に足りないもの」とは一体何か?

隣に座って話を聞くことが本当に大事
ブレイディ みかこ, 石戸 諭 プロフィール

隣に座って話を聞くこと

石戸 嫌中、嫌韓言説そのものよりも「百田さんは、はっきりものをいってくれてすかっとします」というところに惹かれる人は大勢いるんです。では、その「すかっとするもの」は何なのかって話で、どうしても嫌中・嫌韓言説じゃなきゃいけないという人はどの程度いるんでしょうねと考えてしまいます。別にほかのものでもよかったりするわけですよ。

ブレイディ だと思う。そこは、きっと交換可能なんです。

石戸 そう。まさに交換可能な何かかもしれない。そうすると、極右に投票する若者たちも、そこで労働党の人たちがちゃんとパブに行って、調子どうなの? 最近困っていることある? みたいな感じで、コミュニケーション取っていたら変わるかもしれないでしょう。

ブレイディ そうなんですよ。大事なのは、上から語りかけるとか、前から語りかけるでもダメで、横に座って話を聞かないといけないんです。石戸さんはこの本で、まさにそれをやったわけじゃない。

石戸 隣に座って話を聞くとか、そこからでも接点は生まれます。わからなかったらわからなかったで、別に距離をとればいいんだと思っています。わからない人たちを、どこかで異物扱いすることによって、マグマがたまっていくと、強烈なしっぺ返しを食らうというのは世界中で起きていますからね。

〔PHOTO〕iStock
 

ブレイディ 左派は、英国でもそうだけど、こう、なんかだんだん懐が浅くなってきてますよね(笑)。懐が深いって、英語で何て言うのかなって考えたときに、一番しっくりくるのは「He has a big heart」とか、やっぱり「big heart」なんです。左派は、ちょっとハートが小さくなってる。このハートを大きくしようよっていう話なのかな。

石戸 でも、最近はますます党派性が強まっているような気がします(笑)党派性はハートを小さくしていると思います。

ブレイディ 最近、出版界もいやに党派的になってきてるし。ノンフィクションなんて人間の割り切れない部分とかわからない部分とか、そういうもっと人間の多面性とか矛盾に満ちたところとかをそのまま投げ出してよかった分野だと思うんだけど、そうじゃなくなってきているような。

石戸 僕は『ルポ 百田尚樹現象』の中で、人間は複雑であり、多面的であり、ひとまず党派性でジャッジせずに思想と行動の軌跡を辿るというやり方をとりました。党派的なものを書こうと思ったら、それはそれで非常に楽にできます。

あれが間違っている、ここが間違っている、ここがおかしいと全部あげて、今を憂い、最後はそれでも諦めずに頑張ろうと書けばいいからです。でも、それは取材しなくてもできることです。