「右派が持っていて左派に決定的に足りないもの」とは一体何か?

隣に座って話を聞くことが本当に大事
ブレイディ みかこ, 石戸 諭 プロフィール

ファクトチェックで不安は消えない

ブレイディ 私が『ルポ 百田尚樹現象』ですごく面白いと思ったのは、文芸批評にもなっていて、出版界批評にもなっていることですよね。これは本をつくっている人、本にかかわっている人はほんとにみんな読んだほうがいいと思う。

石戸 この話は、ブレイディさんの『ワイルドサイドをほっつき歩け』でいえば、EU離脱派につながりますよね。離脱派はNHS(国民保険サービス)、イギリスの医療システムが崩壊するというデマに不安を感じたわけじゃないですか。前編の話にもつながりますが、左派は何をやっていたかと言えば、デマをファクトチェックで潰そうとした。でも、それではうまくいかなかった。

結局、論破しようとして論戦には勝てるけど、不安な気持ちを受け止めるというところで大失敗した。これは示唆的です。

ブレイディ 残留派はこの人たちが言ってるのはこうだからデマですと、データを見せればみんな納得すると思った。でも、それは響かないですよね。例えば、あなたたちの不安はわかりますからという話で始めて、でもNHSの問題はEU離脱の問題とあんまり関係ないんです、実は緊縮財政で医療がうまく回らないようにした国内の政策が悪かったんですというようなことをうまく言えなかった。まあ、もちろん、残留派の指導者は当時の首相だったから、そんなことはおおっぴらに言えない事情はあったにしろ、ファクトチェックして、デマです、終了みたいな(笑)。それじゃ学校の先生が答案に〇×つけてるみたいです。

私が住んでいるところは労働者階級の地域なんだけど、緊縮財政が始まってみんなの不満が高まったとき、左派政党が全然来ませんでした。選挙前は来るんだけど、普段は左派が何もしてない。で、そういうところにリクルートに来るのは、極右なんです。
彼らがどうやってリクルートしていくのかといえば、不満を抱えてそうな若い男の子とか、そういう子たちの話を聞いたりする。パブで隣に座って、最近調子どう?って声をかけて不満を聞いていくんです。そういうところから極右のグループに取り込んでいく。

労働党は公営住宅に住んでいる人たちの暮らしをよくするためにとか言うのに、普段は回って来なかった。それなら普段からちゃんと来てくれて、自分たちのほうに目を向け、話を聞いてくれていると思えるほうに行っちゃいますよね。

 

石戸 極右と言えば、東京都知事選で極右候補が一番に打ち出した政策が減税だったんです。なるほどと思いました。つまり、今彼らは排外主義的な言説だけでは無理だと思ったから、ついに反緊縮を一番に打ち出したのか、と。

これは完全に山本太郎さんが打ち出した「まずはお金の話」をして、みんな苦しいよねと呼びかけるスタイルと同じです。まさにスタイルを取り込んでいく。

ブレイディ 反緊縮路線である程度票がとれるんだなって思った極右が、それを盗んだときに、まさに欧州と同じことが日本で起きると思いました。

極右が反緊縮を取り入れて大きく打ち出したとき、そこに百田現象的なものが結びつけば、欧州で台頭している極右と似たようなことになる。反緊縮と排外主義がセットになるということですから。

右派は、受けがいいものを徹底的に取り入れ、盗んでいきます。その一方で左派は、右派は主張から宣伝手法まですべてが間違っていると考えて、ことごとく真逆にやろうとする。そこが違うところですよね。