「右派が持っていて左派に決定的に足りないもの」とは一体何か?

隣に座って話を聞くことが本当に大事
ブレイディ みかこ, 石戸 諭 プロフィール

草の根を張ることができないとダメ

石戸 これは自民党がなぜ議席を取れるのか、という話ともつながっています。石破茂さんのインタビューをしたとき、彼が幹事長時代に口すっぱく言っていたのは選挙区を回れ、とにかく足で稼げということでした。これはちゃんとドブ板をやりなさい、ということです。僕はどこかで「大事なのは政策でしょ。議員は政策で惹きつけてなんぼでしょ」と思っていました。

もちろん、政策は大事。ここは譲れないけど、一方で選挙は回って、握手してそこで語って、自分を知ってもらって票を動かすことが大事です。昔、取材していた岡山県でも選挙に強い議員は、朝から敬老会の行事、青年会議所のイベント、地域のお祭りとくまなく回っていました。選挙カーの上とか講演会の会場とかで政策だけ訴えれば政治が動くかって、そんなことはないのだ、思い知らされました。

かつてほど強くはないですが、それでも自民党議員は回っています。ところが野党側は回っていない。そうなると「あの先生は来ないねぇ」となって、人は逃げていく。

あえて選挙と比較しますが、読者や書店員を回って握手することは本当はとても大事なはずです。いい本をつくれば売れるという発想は、いい政策を作れば有権者は動くという発想に似ている。いい本をつくるのは当たり前、そして、どう届けるかも大事なはずです。

石戸諭さん(撮影:西田香織)
 

ブレイディ だって、届けることが一番難しいことで、そこがもっとも大変なところですよね。私も最近ようやく気づいたのであんまり大声では言えないんですが(笑)。でもそれこそが、まさに百田さんがやっていることでしょう。

石戸 やっぱり、握手して、ちゃんと語り掛けていくとか、そこからしか始まらないコミュニケーションがあるのが人間です。ブレイディさんも前作では帰国に合わせて書店回って、それこそイベントもやっていましたが、そこで本当の読者の姿を見ることになりますよね。きちんと読者や販売してくれる書店員の方と向き合う時間が大切ではないですか。

ブレイディ そうなんです。やっぱり、本屋さんが出版の草の根なんですよ。右派的な本が売れるのが嫌だと思うのなら、草の根から自分たちの本を広げないといけない。どんなに高尚で正しいことをやっても、売り場で草の根を張ることができないとダメなんですよ。

私は読者にも、もっと楽しいか楽しくないかだけじゃなくて、ソルニットが言っているように深いか深くないかとか、そういうところで本を読んでほしいなと思っています。でも、その価値観を広げるのもやっぱり草の根からでしょう。

石戸 僕が仕事をしてきた、ジャーナリズムの世界でも長らく「良い記事さえ出せば読者はついてくる」という発想が支配的でした。数字を追うのは迎合することだと思われてきましたが、それは違うわけです。大事なのはバランスで、届ける手法や努力を怠ってはいけないのです。