金融のプロが見た『半沢直樹』のリアリティ

ドラマ成功のカギを探る
近藤 正高 プロフィール

半沢が体現する銀行員の理想像

浪川氏には、銀行員は『半沢直樹』をどう見ているのかについても訊ねたのだが、これに対しては「かなりのデフォルメはありますが、荒唐無稽とまではいかず、そこが面白いのでしょうね」という答えが返ってきた。

てっきり、銀行の人たちは『半沢』を、こんなことはありえないと思いながら見ているのかと思いきや、あながちそうでもないらしい。それは半沢が銀行員の理想像を体現しているからなのかもしれない。『銀行員はどう生きるか』の「おわりに」に出てくる次の一文など、まさに半沢を思い起こさせる。

 

《かつて、銀行員の理想像として思い描かれていたのは、こういう話だった。

「油塗れの作業服姿で資金繰りの相談に飛び込んできた社長がいた。支店長はじっくりと話を聞いて、その社長の生真面目さを見抜いた。そこで、支店長は担保もないというその社長に融資を実行。会社はそれで助かり、のちに成功した。それがあの企業だ」

 この理想像は変わらない。おそらく、これからも変わらない。銀行の、そして、銀行員の社会的な使命だからである》

銀行の現場で奮闘する人たちに取材した『ザ・ネクストバンカー』でも、顧客を大切にするがゆえ曲がったことを絶対に許さない、半沢にそっくりなエピソードがいくつも出てくる。

AI時代に求められる、『半沢直樹』の人間臭さ

たとえば、三菱UFJ銀行の執行役員で京都支店長の川井仁氏は、部下が顧客から得た取引を、わざわざ“壊し”に行ったことがあったという。

本人いわく《それは日々熱心に活動している部下の姿を見たお客様が、部下の評価が上がるだろうと取引を発注してくださったものでした。これは、お客様のニーズに応えるという銀行員の本来の役割とは明らかに違います。そこで、私は、お客様のもとを訪れて、その趣旨を説明して取引を撤回していただきました》

あるいは、愛媛を拠点とする伊予銀行の矢野一成氏が、デジタライゼーションを導入した新支店の支店長に就任した際、本部の企画担当者たちに告げたという《途中でハシゴを外すな。それをやられたら、ちゃぶ台をひっくり返して怒るでえ》との言葉など、半沢のあの決めゼリフを思わせる。

AIやデジタライゼーションが進化すればするほど、現場ではむしろ人ならではの温かさや心情が求められるようになるのではないか、と浪川氏は書く。『半沢直樹』も細かいところはともかく、そうした人間臭さにこそリアリティがある。だからこそ、人々に受けるのだろう。