金融のプロが見た『半沢直樹』のリアリティ

ドラマ成功のカギを探る
近藤 正高 プロフィール

フィンテック・プレーヤーの台頭

銀行は国内外の金融政策の転換だけでなく、いまひとつ危機に直面している。それは、フィンテック・プレーヤーの台頭だ。

フィンテック・プレーヤーとは、スマートフォンなどを通じて送金や支払いを行うフィンテック(financial technology/金融とIT技術の融合)を活用した金融サービスの提供者を指す。スマホを操作するだけで振り込みなどの資金決済やローン申し込みまでできるとなれば、銀行にとっては脅威である。

 

それに対抗する新たなビジネスモデルの確立に向け、メガバンクもここへ来てデジタライゼーション(デジタル革命)の吸収に動き始めた。

ネットバンキングのほか、店舗でも従来の窓口をなくし、顧客対応はスマホや専用端末の操作だけで事足りるようにしたところも徐々に現れつつある。デジタライゼーションの導入で店舗に事務行員が不要となり、人員削減への効果も期待される。

スマートすぎた? ドラマ『集団左遷!!』

昨年、『半沢直樹』と同じくTBS系の「日曜劇場」の枠で放送された『集団左遷!!』はまさに、ここまであげたようなメガバンクの現状をビビッドに反映したドラマだった。原作は江波戸哲夫氏の小説『集団左遷』『銀行支店長』だが、後半は、現在の銀行を取り巻く諸問題を題材に、ほぼオリジナルのストーリーとなっていた。

福山雅治演じる主人公の銀行員・片岡は、リストラ対象となった支店の支店長に就任、本部からは支店存続の条件としてほぼ達成不可能に近いノルマを課されるも、どうにかして生き残ろうと部下たちと地べたを這い回るように営業を行なう。

ここで片岡たちが敵対するのが、経営刷新のためリストラとデジタライゼーションを推し進める常務取締役(のち副頭取に昇格)の横山で、三上博史が演じた。横山の改革案には、「脱・銀行」を謳い文句にIT企業との合併も含まれるあたり、時代のかなり先を行っていた。

だが、舞台を本部に移した後半では、その横山に不正疑惑が浮上し、片岡に追及されることになる。この構図は『半沢直樹』とそっくりだが、視聴率はさほど伸びなかった。

それはおそらく、『半沢』とくらべると人物の設定も物語の展開もスマートすぎたせいではないか。三上演じる横山はいかにもエリート然として、品がよすぎるぐらいだった。片岡による不正の追及も、最終的にマスコミと検察に告発するというまっとうな形をとっていた。

「泥臭さ」が売りの『半沢直樹』

これに対し『半沢』は前シリーズを見るかぎり、敵の不正を追及しても、最後は土下座をさせるという一種の私刑で終わらせてしまう。ある意味、相手からすればこちらのほうがよっぽど屈辱的だが、『半沢』が人気を集めたのは、そうした泥臭さゆえなのだろう。

ちなみに『半沢』で見事なヒールぶりを見せている香川照之は、『集団左遷!!』では主人公の味方に回っていたが、これも視聴者には物足りなさを感じさせたのかもしれない。

今回の新シリーズでは、香川と並んで市川猿之助が野心を隠そうともしない悪役ぶりを見せ、話題を呼んでいる。しかしそんな『半沢』にもちょっと気がかりなことがある。それは、登場する企業などの設定がやや古びて見えはしないかということだ。

前半は大手IT企業によるベンチャー企業の買収話を中心に展開するようだが、この設定からして、ライブドアが球界参入やニッポン放送買収に乗り出していた15年ほど前ならともかく、現在のドラマとして見るといささか時代遅れの感は否めまい。

ちなみに今シリーズで主に前半の原作となる『ロスジェネの逆襲』(2012年)の時代設定は2004年と、まさに球界再編に揺れた年だった。後半の原作となる『銀翼のイカロス』(2014年)もまた、そこで半沢が再建計画にかかわる航空会社のモデルと思しき日本航空が会社更生法の適用を申請したのは2010年で、10年も前の話だ。これをドラマ化していかに現在の話として見せるのか、気になるところである。

もっとも、『半沢』は前シリーズからどこか時代劇がかったところがあるので(今シリーズでもさっそく半沢が証券会社の若手社員に近づくのに、いきなり傘を竹刀替わりに背後から迫り寄っていた)、大方の視聴者はそういう古びたところも含めて楽しんでいるのかもしれない。