金融のプロが見た『半沢直樹』のリアリティ

ドラマ成功のカギを探る
近藤 正高 プロフィール

人員削減のターゲットになるバブル世代

まず注目したいのは、半沢が銀行においてどんな世代にあたるのかという点だ。彼が東京中央銀行に入行したのは1991年で、バブル世代にあたる(前シリーズの原作となった池井戸潤氏の小説も『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』というタイトルだった)。

『銀行員はどう生きるか』によれば、銀行はバブル経済の余韻が残る1990年代初頭まで膨張主義を貫き、毎年1000人規模で大量採用し続けた。だが、《その後、バブル経済の崩壊が本格的な金融危機へと発展し、銀行が巨額の不良債権処理にあえぐ時代に入ると、当然、採用人員は徐々に絞り込まれ》ていく。

 

2017年11月、日本を代表する3つのメガバンク、三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)、三井住友銀行、みずほ銀行に対し大規模な人員削減が発表された。

その背景のひとつには、2013年に日本銀行が金融緩和政策を発表して以来、超低金利が加速し、2016年にはさらに前代未聞のマイナス金利政策が導入されたことがあげられる。これにより銀行の収益構造は一挙に深刻な悪化を来し始めていった。

一方、2008年のリーマン・ショック以来、欧米各国で導入された厳しい国際金融規制によって、日本のメガバンクは恩恵をこうむり、国際業務部門を拡大させていた。国内業務の先細り症状が慢性化するなか、国際業務には収益期待という重みがのしかかるようになる。

だが、こちらも2017年に発足した米トランプ政権が一転して金融規制の緩和に乗り出したことで、大きく揺らぎ始める。こうして3メガバンクは「国内」「国外」の二つの主柱が危うさを増したことで、大規模な人員削減に乗り出したのだった。

「銀行に勤めた人間は銀行に戻りたいと思っている」

もっとも、ここで着手された人員削減は、解雇通告をしてクビにするという典型的なリストラではない。そこで採用されたのは「自然減」、つまり退職者数を増やす一方で、その穴埋めをできない水準にまで新規採用数を抑制することで、全体の従業員数を圧縮する方法だった。

削減にあたり大きなターゲットとなるのが、年齢的には現在40歳代後半で、まもなく銀行独特の早期退職年齢を迎えようとしているバブル世代だ。彼らが銀行を去っていくあいだ、新規採用を抑制すれば、大量規模の「自然減」が成立するというわけである。

こうした現実を踏まえ、あらためて半沢の立場を思えば、彼が銀行に戻るにはますます下手なことはやれないだろう。それにもかかわらず銀行に反旗を翻すとは、よっぽどの覚悟を抱いてのことなのだと気づかされる。

『半沢直樹』新シリーズの初回では、池田成志演じる銀行から出向した証券会社の次長が、前出の猿之助演じる証券営業部長から銀行に戻してやるからとそそのかされ、買収案件の横取りを手伝う。その後、半沢から不正を追及された次長が口にしたのが、「一度でも銀行に勤めたことのある人間はまた銀行に戻りたいと思っている」というセリフだった。

「銀行員」に対する世代間の意識の差

果たして、現実に銀行から外に出された人たちも、銀行に戻りたいと思っているものなのだろうか。これについて浪川氏に訊ねたところ、以下のような答えが返ってきた。

「おそらく、世代間で違っています。40歳代以上は『もう一度』と思うでしょうね。安定感もある職業だったし、年齢が高くなると給料はかなり良くなりますから。しかし、いまの若手はそんな気持ちは乏しいでしょう。斜陽化している現実をみているし、仕事もつまらなくなっているから。逃げ切り世代特有の感覚だと思います。つまり、ドラマは高齢銀行員モデルですね」

ここでもバブル世代より上と下に分けられるのだろう。浪川氏の言うように、上の世代にとって銀行員は安定した人生が保証された職業だった。

だが、大規模な人員削減が始まり、先行きの見えない現状を間近で見ている下の世代には、もはや安定しているとは言いがたい。どうせ早期退職を促されるのであれば、自分から早めに転職していく若手も出てきてもおかしくはない。

事実、大量の人員削減の話を聞いて、若手世代のあいだでも転職先探しに動く向きが出始めたという。