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精神鑑定書は「宮崎勤・麻原彰晃・植松聖」をどう描いたか

相模原障害者殺傷事件が僕たちに突きつけたもの【第5回】
映画監督・作家の森達也氏が3月19日、死刑判決直後の植松聖と面会した。2016年、入所中の知的障害者19人が殺害されたあの事件の深層とは何か?

第1回はこちら:相模原障害者殺傷事件とは何だったのか?「普通の人」植松聖との会話
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植松をめぐる二つの鑑定書

「精神鑑定においては、その人物の生育歴の調査と分析がとても大きな意味を持っています。犯行に至る性格や動機の形成がどうだったか、法廷でこれを解き明かすためには、絶対に不可欠な要素だから」と(ノンフィクション作家の)吉岡忍は言った。

「ところが宮崎勤の責任能力を認めた鑑定書では、両親や、(実家の)敷地内にあった印刷所の従業員の聴き取り調査すら行われていない。その部分は警察が短くまとめた調書の引き写しですよ。宮崎本人に対しては、いきなり犯行時の心境を聞いている。こんなの、専門家の鑑定と言えないよ」

そう言いきってしばらく沈黙してから吉岡は、「植松の鑑定書はいくつあったかな」とつぶやくように言った。

「ひとつだっけ?」

「二つです」と僕は答える。

 

裁判所が選任した大澤達哉医師による鑑定は犯行時の植松について、「パーソナリティ障害及び大麻使用障害・大麻中毒」と診断した。ただし大麻使用による犯行への影響については、「なかったか、あったとしてもその行動に影響を与えないほど小さかった」と結論づけている。

もうひとつは弁護人が私的に依頼した工藤行夫医師による鑑定で、こちらは「動因逸脱症候群を伴う大麻精神病であり」「本件犯行はその発想から実行に至るまで」「(大麻精神病の)影響が深く関与し、それなくしてはなしえなかったと考えられる」と断言している。つまり大澤鑑定は責任能力を認めているが、工藤鑑定は認めていない、ということになる。

「最終的に採用された鑑定は責任能力を認めているほうだよね」

「もちろんそうです」

植松の幼少時代については、鑑定だけではなく裁判でも、ほとんど話題にならなかった。両親も法廷に出廷していない。もちろん加害者の家族を追い詰めることに対しては慎重であらねばならないが、裁判の過程で、被告人の成育歴にこれほど触れないことは、普通ならありえない。