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黒人差別抗議デモで起きた「銅像狩り」が悲劇を掻き消してしまう可能性

ヴァンダリズムと歴史の拒絶

相次ぐ銅像の破壊・撤去…

ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)運動から派生する形で、欧米各国で人種差別や植民地支配に関連する銅像の破壊、撤去が相次いでいます。一時的な熱狂に終わるかに見えましたが、どうやらこの傾向は今後も続きそうです。

これは、特定の集団を排除する既存の社会システムによる「構造的暴力」を踏まえれば、単純にヴァンダリズム(文化破壊)に過ぎないと型通りの批判を行うだけでは足りないでしょう。この騒動をきっかけにして忘却の彼方に追いやられていた歴史の暗部にスポットライトを当てた面もあるからです。

しかしながら、他方で、銅像に落書きをし、引きずり倒すことで政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)を声高に主張する側は、実のところ「表層的なモニュメント」への攻撃によって程良く"ガス抜き"され、「言葉狩り」ならぬ「銅像狩り」に陥っている可能性が否めません。それによって、さらに階層の深い「構造的暴力」への関心が向かいづらくなる副作用が生じるからです。

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わたしたちが考えているよりも歴史は多面的です。例えば、「奴隷貿易」一つを取ってみても、皮肉なことに、現在のような消費経済を主軸とする近代社会の成立に付与しているからです。

奴隷貿易は、その名の通り黒人を商品として取り引きするものでした。16世紀以降、スペイン、ポルトガル、イギリスなどの欧州諸国が国家的事業として行ない、捕獲した大量の黒人を輸送船に乗せて、アフリカ大陸から南北アメリカ大陸や西インド諸島に送り込んだのです。現地で奴隷商人によって売りさばかれ、鉱山や農園で過酷な労働に従事させられ、多数の黒人が病と重労働と理不尽な虐待によって命を落としました。

奴隷船と呼ばれた輸送船も地獄でした。

裸体のまますし詰め状態で長期間過ごさなければならず、劣悪な衛生状態のために強烈な悪臭が漂い、伝染病などの流行も度々あり、航海中の死亡率は8%から25%で、平均6人に1人が死んだとされています(*1)。

歴史研究家のマシュー・ホワイトは、様々な文献を突き合わせた上で、「大西洋横断の奴隷貿易の総死者数は1400万人から1800万人のどこかの数字になるだろう」と見積もっています(*2)。途方もない悪夢としか言いようがありません。

けれども、このような非人道的な奴隷貿易が近代化の始原になっているのです。