約2年かけてほぼ世界一周した様子を綴ったベストセラーエッセイ『ブラを捨て旅に出よう』の著者、旅作家の歩りえこさんによるFRaU web連載「世界94カ国で出会った男たち」(毎月2回更新)。

第13話となる今回は、今から13年前に訪れた「ヨルダン」のホテルで働く日本人のことが大好きな男性スタッフとのエピソードを披露。そこには、あの忘れられない事件に関連した話がありました。

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イラクで起こった無念の事件…

世界94カ国を旅した中で記憶に強く残る宿がある。今から13年前、25歳の頃に訪れたヨルダンの首都アンマンにある「クリフホテル」だ。このホテルには、サーメルという心優しい従業員がいた。ヨルダンで働いているので、てっきりヨルダン人だと思っていたがパレスチナ人だった。

ヨルダン人オーナーの下で毎日休みなく働き続けても、彼の当時の月給は僅か19000円ほど。宿泊する旅行者に分け隔てなく優しくしてくれ、少ない給料の中からコーヒーやコーラをご馳走するサーメル。彼の口癖は「ネスカフェ飲む?」で、毎回遠慮して断っても美味しいコーヒーやコーラを一日に何度も差し入れてくれた。

日本人旅行者と毎日UNOや大貧民などのカードゲームをして過ごす、日本人が大好きなサーメルの存在は中東を旅する日本人旅行者の癒しとして当時から有名で、日本人は皆サーメルのことが大好きだった

世界遺産・ペトラ遺跡の神秘的な岩。写真提供/歩りえこ

クリフホテルは、2004年にイラクでアルカイダ組織を名乗るグループに拉致され殺害された香田証生さんがイラク行き直前に泊まっていた宿で、アンマンを訪れる日本人の常宿になっていた。中東に位置するヨルダンは日本で見るニュースでは、隣国との位置関係上危険というイメージがあったが、実際には治安も良く、ペトラ遺跡や死海など素晴らしい観光名所を有する国だ。

危険なのは隣国のイラクや現在のシリアであり、今から13年前にはシリアも情勢が悪くなかった。ただ、イラクに行こうなどという若者はそうおらず、なぜ香田さんがイラクへと向かってしまったのかは未だに謎のままだ。

この香田さんのイラク行きを最後まで止めるように説得していた人物がサーメルだ

クリフホテルの受付とサーメル。写真提供/歩りえこ