怖いのは病気をうつされること

とはいえ、「マダニに少し噛まれても、そのときちょっと痒いだけでしょ?」と思う方もいるかもしれない。確かに、マダニが一度に大量に寄生して吸血し、貧血などの症状が出ることは、ほとんどない。

マダニの怖さは、単純に噛まれて血を吸われることよりも、血を吸われる際に病気をうつされることにある。冒頭で触れたSFTSという感染症もその一つだ。
SFTSとは、重症熱性血小板減少症候群という2011年に中国で発見された感染症の略語だ。SFTSに感染したマダニに噛まれたり、感染した動物の体液に触れたりすることで感染する。
犬が感染すると、元気や食欲の低下や、発熱、嘔吐や下痢などの消化器症状などが起こる。犬では感染しても症状が認められないことも多く、致死率は約30%だ。

血を吸ってふくらんだマダニ。噛まれることよりも、噛まれたことでうつされることが怖い Photo by iStock

一方、猫が感染すると重症となることが多く、致死率も60%と犬の約2倍だ。また、猫同士で感染する可能性もあるとされている。症状は犬と同様だが、ほかに粘膜が黄色くなる(黄疸)などの症状が出ることがある。

今のところ日本での人におけるSFTSの発生は西日本に限局しているが、年々その範囲は東に広がっている。私は愛知県一宮市で動物病院を開業しているが、すぐお隣の三重県でもSFTSの発生は報告されており、このウイルスにかかった動物が来院する可能性もあるので他人事ではない。
動物病院従事者でなくとも、このウイルスに感染した場合、体液から感染が広がるので、具合の悪い動物を触る時や糞尿・吐物の処理をする際は十分注意してほしい。

また、特にペットを飼っていなくても、山などにハイキングに行ったり、畑仕事などで長時間草むらにいる場合は、同じくマダニに噛まれ、SFTSに感染する危険がある。
マダニのいそうなところに飼い犬が入り込まないように注意する、人間は長袖長ズボンを着用する・マダニに噛まれてもすぐわかるような色の服を選ぶ、などの工夫が必要だ。ちなみにSFTSは、マダニ予防を行っていても感染した例がある。「予防しているから絶対大丈夫だ」と過信せず、注意をしていこう。