お金が貯まらない理由というのは、実にたくさんある。収入が少ない。食費や家賃など、生活の経費がかかる。保険の支払いがある。子育てにお金がかかる。外食してしまう。人付き合いや趣味にお金を使ってしまう。うっかりコンビニに寄ってしまう……。しかし何もしないまま時間が過ぎて、貯蓄もなく、おそらく年金も十分ではなく、老後、貧しくなってしまった未来の自分に、どんな言い訳をすればいいだろうか。

「このままではまずい!」と真剣に考えて、50代で初めて人生を見直し、お金の問題に取り組んだ女性がいる。シングルマザーで、住宅ローンも抱え、貯金はゼロ。そんな女性が一念発起して、猛烈に行動を起こした結果、いったいどんなことが起きたのか。ライターの馬場千枝さんが詳しく話を聞いた。

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52歳で「貯める」決心

離婚後、2人の娘を育てながら、父親が経営する会社の手伝いをしていた町田美香さん(現在64歳・仮名)。ローンで自宅を建てて、娘たちは大学生に。会社で役職に就いた男性でもお金のかかる大変な時期で、まして女性の細腕ではとうてい貯金まで手が回らないのが当然と思い、貯金はゼロという生活を送っていた。

当時、美香さんにはお付き合いをしていた4歳年上の銀行マンの男性がいて、将来、親の介護と子どもの結婚が済んだら一緒になろうと話していた。もともとは父親の知人で、同時期に配偶者を突然失い、「自分の話に涙を流してくれたのが君のお父さんだった」と美香さんに語っていた。離婚した美香さんを心配し、父親が彼を紹介。美香さんはお付き合いを断るつもりだったのに、会ってみたら、思いがけず気があったという。

彼は豪放磊落な人で、何につけても美香さんと意見がぶつかるということがなく、いつもおおらかに受けとめてくれていた。しかし、たった一度だけ、譲らなかったことがある。

「ある時、私が貯金ゼロだということに気がついて、真剣に『それじゃダメだ』と怒ったんです。『自分は入行した時、大先輩から定年までに金融資産で5000万円貯めるように言われて、そうしてきた』と。いきなり5000万円という具体的な金額が出て、衝撃的でした。そんなこと言われても、家を建てたり、子どもの学費もあって、貯金なんて無理。まわりの友だちに聞いても、貯金はできていないと言っていると反論したんだけど、絶対に引かない。『あなたがなんと言い訳しても、やっている人はやっている』と。彼が譲らず、真剣に言うのを聞いて、私は『52歳貯める決心』と手帳に大きく書きました。私の意識が変わった瞬間でした」

貯金ゼロだといっても、女でひとつで子ども二人を育て、学費を払い、家も買い、十分頑張っているから仕方ない。そう思っていた Photo by iStock