7月1日から香港に施行された「香港国家安全法」は、その本質を言えば、強力な治安立法である。「治安立法」と聞いても、いまどきピンと来ないかもしれない。補助線として、日本の「治安維持法」を考えてみよう。
治安維持法は1925(大正14)年に制定。普通選挙法の制定と同時だ。その内容は「国体の変革」をめざす団体を取り締まるもの。具体的には、日本共産党を念頭においている。捜査や検挙は、特別高等警察(特高)が担当した。
共産主義の勢力は、あっけなく壊滅させられた。暇になった特高は、自由主義者や宗教団体に手を拡げた。1945(昭和20)年の敗戦で、廃止された。
一般の刑法は、行為を罰する。行為が刑法にふれるのが、犯罪だ。起訴されて、有罪になる。犯罪をしようと「考えた」だけでは、罰せられない。
これに対して、治安立法は、思想を罰する。政府を転覆しようなどと、「考えた」だけで犯罪になる。人びとの頭のなかみを取り締まるのが、治安立法だ。
治安維持法にいう「国体の変革」とは、天皇制をなしにしたり、共産主義社会をつくったりすること。そういうことを考え、何人かが集まったら、取り締まる。
治安維持法の場合、起訴されて有罪になるのもさることながら、取り調べの段階がきつかった。頭のなかみを調べ、仲間を割り出す。白状しろ、と拷問になる。取り調べ中に死んでしまうこともあった。