政府と党が二重の権力をかたちづくっている独裁国家。こういう体制を、政治学では、「全体主義」という。
全体主義は、伝統的な専制国家とは異なる。単なる独裁国家とも異なる。独裁ではあるが、さらに特別で異様な体制をそなえている。全体主義について、本格的に研究したのが、ハンナ・アーレント『全体主義の起源』である。
アーレントは、ユダヤ系のドイツ人。哲学を学び、ヒトラー政権にドイツを追われ、苦労のすえアメリカに亡命した。そして、ナチズムとスターリニズムをひとまとめに「全体主義」だとする、まったく新しい認識を示した。ナチスは右翼、ソ連は左翼で正反対。でも実は、そっくりだとする。
ファシズムは、政府を党が乗っ取った。党員は政府の要職に就いて満足してしまい、そのあと党は機能しなくなった。
ナチズムは違う。党は、政府と重なりつつも組織を維持し、その党が政府に指示する。二重権力状態で、政府は空洞化した。
また権力を握ったあと党のプロパガンダはいよいよ激しくなり、秘密警察やテロが本格化した。ソ連も同様に、共産党と政府の二重権力で、秘密警察が重要な役割を果たした。
ナチズムもスターリニズムも、どちらも全体主義で、自由主義の敵である。アメリカは自由の旗を掲げて、ナチスを第二次世界大戦で打ちのめした。自由の旗を掲げて、ソ連との冷戦を勝ち抜いた。