原因と結果、過去と未来をつなぐ「光円錐」
そして、アインシュタインはこう考えました。
原因があって、それが次のできごとに伝わるまでには、力とか情報とか、なんらかの伝達手段が不可欠だ。では、最もよくそれらを伝えるものは何か。それはこの宇宙を最大速度で進む光だ。たとえ真空であっても、光ならば伝えられる。ならば、光が進みうる範囲内でのみ、ある原因がある結果をもたらす因果律が成立する。
この光が進みうる範囲のことを「光円錐」(ライトコーン)と呼びます。あらゆるできごとは、この光円錐の中を逃れることができず、過去から未来へと一方向に進んでいると、アインシュタインは考えたのです。
以下の図に示したものが光円錐です。ここに描かれている、逆三角形と三角形の頂点を結んだ線の中だけでしか、原因と結果は関係しないとしました。この線は光の速度が届く限界範囲であり、その内部は、速度が光速度以下の、たとえば音などの伝達情報をすべて含んでいます。

この真ん中の頂点部分が、いま私たちがまさに存在する現在ということです。図に示されているように、そこはすべての過去とつながっているわけではなく、その下の三角形の領域とつながっている情報しか現在と関係しないことを物語っています。
アインシュタインは、原因と結果の関係を、光速の範囲に閉じ込めて、あまりにもきっちりと決めてしまいました。繰り返しますが、因果律とは原因と結果が順序だって関係するというルールです。それはすなわち、過去と未来の順序は変えられないということです。
だとすると、時間は過去から未来への一方向へ進み、逆戻りするということは、否定されてしまうことになります。敬愛してやまないアインシュタインがそう言うからには、承服するよりなさそうです。ううむ。
たとえば、SF好きの間で、相対性理論について話すときによく登場するタイムマシンも、仮につくることができたとしても、因果律があるせいで未来にしかいけません。過去に戻って原因に何か変更を加えると、現在の結果と整合がとれず、因果律が成り立たなくなるからです。窮屈だぞ、因果律!

ブルーバックス 『時間は逆戻りするのか』という本で、私は「時間を逆に進む世界はあるのか」という命題の、壮大な時間探究の旅に出ました。しかし、この思考の旅の始まりで、早くも物理学の巨人に通せんぼされたような事態になってしまったのです。
でも、あきらめるのはまだ早い。因果律が私たちに「時間の矢」を射かけてきて邪魔をするのは、光が過去から未来への一方向だけに進むものと考えたからです。もしも、逆に未来から過去に向かって飛ぶ光があれば、因果律とも矛盾せず、時間が逆戻りする可能性が開かれてきます。
そんなの、ただのご都合主義じゃないか! とお叱りをうけそうですが、じつはそうとも言えないのです。相対性理論に続いて、20世紀の物理学に起きたもう1つの革命、量子力学において時間はどう考えられるか。次回は、このあたりを旅してみたいと思います。
この記事は、ブルーバックス 『時間は逆戻りするのか』より作成しました。
時間の不思議と逆戻りの謎を巡る旅、連載「時間は逆戻りするのか?」
次回は、8月8日の配信予定です! 前回記事はこちら
「時を戻そう」は本当に可能になるかもしれない!
一方通行と考えられてきた時間は近年、逆転する現象が観測され、なんと「時間が消えるモデル」までもが提唱されている。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターで晩年のホーキングに師事した「最後の弟子」が語る新しい時間像。読めば時間が逆戻りしそうに思えてくる!