絶対不変の時空を歪めた相対性理論。それでも破れなかったものとは?

アインシュタインも認めた因果律
高水 裕一

光を絶対的地位につけたら、時間が遅くなった!

かつて、20世紀初頭までの物理学では、時空は絶対不変で、ほかのあらゆるものの動きを測る基準とも考えられていたのですが、1905年に発表されたアインシュタインの『特殊相対性理論』によって、なんと私たちが住む世界そのものである空間や時間すなわち「時空」は、ぐにゃぐにゃと変動する相対的なものであることがわかったのです。

写真】特殊相対性理論を発表した頃のアインシュタイン特殊相対性理論を発表した1905年頃のアインシュタイン photo by gettyimages

当時は、光が進む速度は状況によって変わると思われていました。たとえば電車に乗っている人がライトを持っている場合と、止まっている人がライトを持っている場合を比べると、電車に乗っている人のライトから出る光の速度は、電車の速度+光の速度となるので、止まっている人が持っているライトの光より速くなるはず、と当然のように、そう信じられていました。

しかし、アインシュタインは、光の速度を絶対的な地位に格上げすることを考えました。光の速度はどんな状況でも不変であり、しかも、この世のあらゆるもののなかで最大速度であるということを、証明する以前に「原理」にしてしまったのです。アインシュタインの着想は正しく、「光速度不変の原理」が確立されて、そこから特殊相対性理論が導かれました。

物体が私たちの日常で見られるような運動をしていれば、ニュートンまでの物理学でも事実上、問題はないのですが、物体が光速、つまり秒速30万kmに近いという特殊な運動をしているとき、例えばものすごい速さで動いているロケットに乗って外を見ると、ものの大きさが縮んで見えます。そして、地上の人よりも時間がゆっくりと流れるということが起こります。空間も時間も、特殊な運動によってサイズが変わるからです。

アメリカンコミックに「ザ・フラッシュ」という、超高速で走ることができる正義のヒーローがいますが、時間がどれだけ遅れるのかを計算すると、フラッシュにとっての時間経過のは私たちの時間経過の6割しかなく、それだけ時間が遅く流れていることがわかります。

  THE FLASH / フラッシュ 〈ファースト・シーズン〉』公式トレーラー。ブルーバックス 『時間は逆戻りするのか』ではどれくらい遅れるかを計算してみた

フラッシュの腕時計は標準の時間よりも進みが遅いので、悪事が行われる場に駆けつけるのが一瞬遅れてしまわないかという心配がありますが、どれくらい遅く流れるかわかれば、腕時計の補正量もわかります。

 

絶対不変だった時空がぐにゃぐにゃになった!?

さらに、アインシュタインは『一般相対性理論』で、重力とは、時空の歪みから生まれるものであることを予言しました。ごくおおまかにいえば、トランポリンのネットのような時空にボールを置くと、その重みでネットが凹むというイメージです(図の上)。「ものが落ちる」とは、その凹みにものが転がっていくことです。

そして彼は、宇宙には極端に強い重力によって、時空のネットが究極にまで凹んだ場所があることも予言しました。それがブラックホールです(図の下)。

【図】重力のイメージ cap一般相対性理論が予言する重力のイメージ。上はネットが凹むように時空が歪んで重力が生まれるようす。下はブラックホールでは時空のネットは究極まで凹むようす

1915年、まさに今からおよそ100年も前のことでした。

未来を決めるのは因果律?

こうして、特殊相対性理論では「光」が、そして一般相対性理論では「重力」が、絶対不変のはずの時間を伸び縮みさせたり歪めたりしていることを予言しました。そして、じつは相対性理論の話は、本書ではここからが重要になってきます。アインシュタインは相対性理論を生みだしたあと、相対化した時間における〈原因〉と〈結果〉という"ルール"について、突きつめて考えることとなりました。

「あのとき、あんなことがあったから、いまこうして僕たちは出会えたんだね」

「あのとき、あんなことをしてしまったから、僕たちは別れてしまったんだね」

世界中のどれだけの恋人たちが、過去にこんな会話をかわしてきたことでしょうか。すべての結果には、それが起こるための原因が存在していると、私たちは考えています。そう、この世はすべて、原因と結果に支配されていると。仏教にも「因果応報」という言葉があり、悪い行いをすると、巡り巡ってその報いを受けることになると教えられています。

そして物理学にも、「因果律」というルールがあると考えられています。すべては原因があって結果があるのであり、その逆は成り立たないという考え方です。

物理学にも、原因があって結果があり、その逆は成り立たないという「因果律」があると考えられている photo by gettyimagesアインシュタインが考え進めていったのは、この因果律についてです。

因果律の考え方を極端に推し進めていくと、現在起きているすべての結果は、宇宙が誕生した最初に決まっているという「決定論」ともいわれる考え方に行きついてしまいます。それはそれで、壮大なスケールの話で面白いのですが、さすがに無理がありそうです。

しかしアインシュタインという人は、偶然を嫌い、この世界のすべてをつかさどる法則を「神」として崇めていたそうですから、因果律が未来にどこまで影響を与えることができるのか、その範囲をきちんと定めたいという思いがありました。そのために思索を重ねていったのです。

つまり、かの天才は、ある原因が結果にどこまで影響を与えることができるかということを、光という絶対者の立場で限定したかったのです。