商品パッケージが「味」になる?情報で味を変える「近未来の調理法」

「期待」や「ギャップ」の不思議な効果
大嶋 絵理奈 プロフィール

食べ物においても人はブランド情報に騙される

案外、人は簡単に同化を起こしやすい。このことを示唆する別の事例を紹介しよう。

世界的に人気な二大コーラと言えば、ペプシコーラとコカコーラである。ペプシコーラは1970年代に、ペプシコーラとコカコーラ、どちらの味が人気であるかを調べる実験を行った。

まずは、コーラのブランドを明かさない条件で飲み比べてもらったところ、ペプシコーラを好む人のほうが多いという結果になった。つまり、味自体は、ペプシコーラのほうがすぐれていたということだ。

しかし、次の実験で、ブランドを明かした条件で飲み比べを行ったところ、コカコーラを好む人のほうが多いという、逆の結果になった。「コカコーラ」というブランドの情報が、飲んだ人のトップダウン方式での味の感じ方を変えたのだ。これは「ペプシパラドックス」と呼ばれている。

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実際、この実験を脳の状態を測定しながら再現した別の実験でも、この結果の裏付けが取れているようだ。

ブランドを明かさない条件では、どちらのコーラを飲んだ時も、食べ物の快楽に関係する脳の「前頭前皮質腹内側部(VMPFC)」と呼ばれる場所が活発にはたらいていた。しかし、ブランドを明かした条件では、コカコーラを飲んだ時にのみ、感情や記憶に関する脳の「海馬」「前頭前皮質背外側部(DLPFC)」「中脳」という場所が活発になっていることが分かった。

実験参加者がコカコーラを飲んだときには、コカコーラのCMや広告などによって作られたイメージが思い出されていたのではないかと考えられている。CMや広告で良いイメージが形成されていると、その期待と味への印象が同化するのだ。

 

パッケージの情報で食感まで変わる

最後に、情報によって食感までもが変わってしまう事例も紹介しておこう。

2000年にアメリカ・イリノイ大学で行われた研究では、大豆を含まない「栄養バー」のパッケージに、「大豆入り」と表記した場合とそうでない場合で、食感に影響が出るが調べられた。

その結果、「大豆入り」と表記した場合は、後味が強く感じられ、栄養バーの粒子の粗い質感が目立つようになることが分かった。つまり、実際には大豆が入っていないにもかかわらず、大豆そのものに対する印象が、栄養バーの味と食感に影響(同化)したのである。

このように、複数の感覚刺激がお互いに影響を与え合うことで、私たちの脳の中でひとつのまとまった印象がうまれる現象を「クロスモーダル」な現象と呼ぶ。モーダルとは直訳すると「様式」であり、味覚や嗅覚、視覚、触覚などの複数の様式を用いるのがクロスモーダルである。食べ物を味わうとは、さまざまな感覚への刺激が合わさって生じる、クロスモーダルな体験なのである。

言い換えれば、入力する刺激の種類を変化させることで、感じる味やおいしさの質を変化させることができる。未来の調理では、食材や製法、味付けなどにこだわるだけでなく、食べ物に対する人のイメージをいかにコントロールするかが重要になっていくことだろう。