宇宙、科学、環境。未知なる専門分野に触れてみる。大人になると、そんな社会科見学のような旅が新鮮です。本屋〈SPBS〉のマネージャー鈴木美波さんが向かったのは研究学園都市、茨城県つくば市。脳をフル活動させる、知の冒険へいざ!
見る、聞く、触れる。
体を使って、知るを楽しむ。
いくつになってもワクワクしていたい――。本屋のマネージャーを務める鈴木美波さんが、旅の始まりに口にした言葉だ。鈴木さんが働くのは、東京の奥渋谷にある本と編集の総合企業〈SHIBUYA PUBLI SHING& BOOKSELLERS〉。小説、エッセイ、雑誌、ビジネス書。日々、あらゆるジャンルの本に囲まれているのに、旅先でもやっぱり“知らない何かを知ること”を求めてしまうという。
「美術館に行ったり、建築を見たり、旅先でも基本、何かを学びたいタイプなんです。学ぶことは本でもできるけど、それでもやっぱり、旅は特別。旅先で触れた未知の世界は、身体的な記憶と一緒になって、自分の中に残ると思うから」
そんな学習意欲たっぷりの鈴木さんと向かったのは、茨城県つくば市。“日本の知の拠点”、国家レベルの研究学園都市だ。筑波大学を筆頭に、科学、医療、環境、自然、農業……。あらゆる分野の研究機関がこの地に集結している。
「つくば、という言葉の響きが、すでに知的。学生時代、筑波大学に憧れたこともあったんですよ」と恥ずかしそうに笑う鈴木さん。
中学、高校で得意だったのは数学。化学や生物の授業も好きだった。
「だから今日、JAXA(ジャクサ)を見学できるのが一番の楽しみなんです!」。キラキラと輝く瞳は、もう子どものそれに戻っていた。
JAXAの正式名称は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構。種子島など、日本各地に施設があるが、中心はここ、つくばだ。東京ディズニーランドと同じ広さの敷地に、研究施設や宇宙飛行士の訓練施設、日本実験棟『きぼう』の管制室などが点在している。まずは無料で見学できる展示館「スペースドーム」へ。JAXAが宇宙で行ってきた研究や開発の成果が展示されている。
例えば人工衛星。古いものでは1978年に打ち上げられた『ゆり』、新しいものでは地球の環境観測のために2006年に打ち上げられた『だいち』など、歴代の人工衛星のエンジニアリングモデル、つまり実物と同じ素材で作った原寸模型が並んでいる。
「東日本大震災の被害状況を宇宙から確認したのは『だいち』です」と教えてくれたのは、広報部の小野希美さん。「『だいち』に搭載されているレーダーは宇宙から地表面の動きを数センチ単位で捉えられるくらいの精度があるんですよ」
科学技術はそんなに発達していたのか。高さ6メートル近い『こだま』を見上げつつ、ただただ驚く鈴木さん。そして、恐る恐る質問。
「人工衛星は、JAXAの内部で作っているんですよね……?」
すると「JAXAに製造部門はないんですよ」とまた驚きの回答が。人工衛星の製造には数十の民間企業が関わっており、JAXAはプロジェクトのまとめ役。ひとつの衛星には、何百、何千という人たちの宇宙への夢が詰まっているのだ。